消費者の“食”に対する安全意識が高まる中、食品業界に求められているのが商品の原材料情報の適切な開示である。JFEシステムズは、今までメーカーなどが社内で分散管理していた原材料情報など商品にかかわる各種情報の一元管理を目的に「Mercrius(メルクリウス)」を提供。すでに食品業界で100社以上の利用実績を誇る。品質情報管理に対する同社の取り組みやシステム製品の強みについて、アイティメディア エグゼクティブプロデューサーの浅井英二が聞いた。
浅井 製鉄大手のJFEスチールから独立したJFEシステムズが、食品業界向けソリューションを手掛けているのは意外な気がします。
菱山 確かに、「鉄」と「食品」は業態の特性が大きく異なります。前者はほとんどがオーダーメイドであるのに対し、後者は規格品と言っていいでしょう。製造ロットの単位や物理的な大きさ、賞味期限などでも違いがあります。
ただし、共通する点も少なくありません。その最たるものが品質管理に対する考え方です。食品は人が口にするものだけに、製造工程における異物の混入などが社会的な事件に発展する可能性は決して小さくありません。品質管理の不備から経営危機に陥った企業が近年少なくないことからも、その重要性は明らかでしょう。
同じく鉄は産業の“米”と呼ばれ、あらゆる業種で利用されています。不良品が発生した際の影響も極めて広範囲に及びます。当然、その補償のために製鉄会社が被るダメージも甚大です。これらのことから、両業界とも製品のあらゆる情報を、製造工程をさかのぼって確認できる仕組みをかねてから強く求めてきました。つまり、品質を追求する姿勢には共通の“DNA”があるのです。
浅井 とりわけ、食に関しては、消費者の安全意識が、年を追うごとに高まっていますね。
菱山 その通りです。そうした声に応えるために、商品の原材料や原産国、アレルゲン含有量といった品質を担保する情報、いわゆる原料規格情報の開示を流通業界は食品メーカーに長らく求めてきました。そして、2000年代前半には流通主導で規格情報を確認するための仕組みがいくつか登場することになりました。
菱山 ただし、ここで注意すべきなのが、開示情報の信頼性です。小売業では会社ごとに異なる形式の規格書を発行しているため、仕入先メーカーの担当者は社内の各部門で分散管理された関連情報を、企画書にあわせて手作業で取りまとめて提供してきました。しかし、手作業ではミスを完璧に防止することは不可能です。規格情報を正確に開示するには、提供側が原材料情報をリアルタイム、かつ一元的に管理できる仕組みを整えた上で、その時々の情報を提供できなければなりません。これができれば、原材料変更の見落としや、製造プロセスでのミスの発生といった不測の事態にも、蓄積された情報をさかのぼって迅速に確認することができます。
浅井 とはいえ、社内外での新たな情報連携が必要になるなど、その実現は一筋縄ではいかないのではないですか。
菱山 確かに、乗り越えるべき壁は低くはありません。一般的に、企業が新たな仕組み、つまりシステムを導入する目的は業務効率化にあります。しかしながら、規格情報を管理するためのシステムは導入に際して、品質保証のための新たな業務をビジネスプロセスに組み込む必要があります。その結果、業務負荷が増加しかねないことに多くの企業が頭を悩ませています。
ただし、品質保証の大切さは改めて語るまでもなく、規格情報を一元管理する意義は明らかなのです。特にプライベートブランドの普及により、毎日のように新商品が発売されるほど商品開発サイクルが短期化しており、もはや人手による管理は限界にきています。また、意図的な不正のリスクも完璧に拭い去ることは難しいでしょう。だからこそ、システムで社員が行うべき業務をきちんと定義し、情報を一元的に管理する仕組みを整えることが欠かせないのです。過去の事例から見ても、このことを理解できている企業ほど、システムをうまく機能させています。
このような企業環境において、当社が提供しているのが、商品情報管理パッケージ製品の「Mercrius」(メルクリウス)です。
浅井 では、Mercriusの利用を通じ、ユーザーは規格情報管理においてどのようなメリットを期待できるのでしょうか。
阪田 そもそもMercriusは、当社が強みとしているデータベースとネットワークの技術を基に開発した、商品情報の統合データベースと呼ぶべき製品です。規格情報管理に先進的に取り組む製菓会社との共同プロジェクトによって2002年に誕生し、以来、情報の管理対象を梱包材などにも拡張。さらに内部統制の支援機能などを追加実装することで機能強化を図ってきました。食品業界で100社以上に採用されていることからも、その高い利便性を理解してもらえるのではないでしょうか。
山下 製品のメリットとして強調したいのが、購買部や工場、研究所など、あらゆる部門の情報管理の核として機能させることで、規格情報を容易に統合できる点です。例えば、多くのメーカーでは過去に原材料の仕入先から提供された規格情報を回覧し、各部門で必要とされる情報のみを管理してきました。当然、製品単位での情報管理という考え方そのものが存在しておりませんでした。Mercriusによってそうした状況の抜本的な改善が見込め、商品の安全を担保する基盤を築くことが可能になります。それにより、すばやく製品単位の品質情報にアクセスでき、レスポンスの大幅な向上が見込めます。
Mercriusは使い勝手が極めて良いのも特徴です。商品名や管理コード、アレルゲン物質などでの商品検索が行えるとともに、登録された商品マスターをノンプログラミングで多様な帳票として出力することも可能です。また、他システムとの連携用CSVファイルが生成でき、規格書データの取り込みにも対応していることから、一部門のために導入したMercriusが、ERPシステムなどと連携し、企業の基幹システムにまで育ったケースも珍しくありません。
また、Mercriusの持つワークフロー機能によって、オフィス業務の“見える化”も可能になります。実際に、あるメーカーでは業務を20段階に分けて進捗管理を行っています。
浅井 食品に対する法的な規制も強化されつつあり、その順守のためにシステムの果たす役割も大きくなっています。
菱山 規制強化の代表例として挙げられるのが、2009年のJAS(Japanese Agricultural Standard:日本農林規格)法の改正でしょう。JAS法ではかねてから農林水産大臣が制定した品質表示基準に従った表示をすべての製造業者や販売業者に義務付けてきました。これが強行法規に改められ、違反者に刑事罰が課せられるようになったことで、食品業界は規格情報管理に取り組まざるを得なくなっているのです。そうした背景から、まずは原材料情報の管理を行うべくMercriusを導入する企業も急増しています。
企業の法令順守を支援するためのシステム面の工夫として、組織別のアクセス管理機能やログ管理機能などを新たに実装したり、表示など食品法規に関する最新情報を法律専門の出版社から入手することで、絶えず、機能の見直し、法規情報の最新化を行っています。
こうした取り組みへの評価もさることながら、Mercriusが支持されている理由に、業界のトップを走る先進的なユーザーが数多く導入していることが挙げられるでしょう。先進企業の将来に向けた目標と課題を共有することで、Mercriusは食品業界で必要とされる機能をいち早く実装できるわけです。Mercriusにはこのような最先端のノウハウが詰まっており、これがJFEシステムズの優位性ともいえるでしょう。
浅井 Mercriusではアプリケーションサーバとして、オープンソースソフトウェア(OSS)の「Apache Tomcat」に加えて日立製作所の「Cosminexus」を新たに採用しています。この狙いはどこにあったのでしょう。
菱山 Mercrius単体で利用する上ではもちろん問題はないのですが、すでに述べたとおり、品質保証や商品開発を支援するためにMercriusを全社展開する企業は少なくありません。このように利用範囲が広がり、基幹系システムと同等の高い信頼性が求められるようになってきたため、今後の要求に備え信頼性の高いアプリケーションサーバの採用が必要だと考えました。
また、商品規格情報は今後、トレーサビリティや生産システムなどの安全管理の起点になると推測されます。そうなれば、当然、生産ロット情報と紐付けたり、購買計画に情報を反映させたりといった具合に、他システムとの連携が増えるでしょう。その点からも、他システムとシームレスに接続するためのインタフェースを部品として備えているアプリケーションサーバとの連携は、お客さまにとってのメリットも大きいと考えました。 これらを総合的に考え、高い信頼性と安定性を実現し、かつ、他システムとの連携のしやすいアプリケーション基盤を検討し、いくつもの選択肢の中から私どもが最終的に選択したのがCosminexusでした。
浅井 Cosminexusを採用したことによる具体的な効果を教えてください。
菱山 信頼性と安定性の高さはもちろんですが、各種システムとの連携ニーズにも、柔軟かつ迅速に対応できるようになります。食品業界では現在、グループ各社が一丸となって品質向上に取り組む気運が高まっていますが、今後、Mercriusをグループ各社における共通基盤として提供することで、グループ会社間での規格情報などの集約にも役立てられるはずです。
また、Mercriusは商品情報の管理を狙いとした製品であることから、商品情報などを登録する際に、審査・承認といったワークフロー機能を実装していますが、商品情報を誤りなく、効率良く登録することは大変重要な業務となります。商品の登録までの手順をナビゲートする仕組みがあれば、正確かつ効率的に商品の登録を行なうことができるようになります。
同様にさまざまな部門で情報を活用する際にもこのナビゲートする仕組みによってより効果的な情報の利活用が可能になります。先進的な企業からは、商品ライフサイクルの短期化に伴う新商品数の増加を受け、個々のプロジェクトの詳細な進捗管理や予算管理、つまりPLM(Product Lifecycle Management)まで行いたいという声が寄せられるようになっています。Cosminexusで提供される「uCosminexus Navigation Platform」は、このような要望を実現し、Mercriusの価値をさらに向上させてくれるはずです。
浅井 2月29日に日立システムズや日立製作所と共同でセミナーを開催するそうですね。その狙いを教えてください。
菱山 商品開発や購買などの部門では規格情報管理の大切さは認知しているものの、残念ながら経営トップにまで理解が浸透している企業は、現状では決して多くありません。そこで、「製造業を強くする商品マスター管理のポイント」と題した今回のセミナーでは、経営層に対する規格情報管理の重要性の周知を目標に掲げています。
例えば、近年アレルゲンの種類が増加し、米やゴマなどの食品も場合によってはアレルゲンとなることが判明したことで、食品業界では情報開示の重要性がますます増しています。それに対応するには、情報管理プロセスを業務に組み込むことは必要不可欠といえるでしょう。さらに、食の安全の向上は、交通の安全の向上と同様に、社会全体として取り組むべき課題だと考えています。それ故に、規格情報データベースの共通基盤化を通じて、いずれの企業でもデータを活用できる仕組みを整備することがさまざまな組織で検討されています。
セミナーでは、キユーピーの生産本部で技術企画担当部長を務めていた高山勇氏による、食品の安全性を担保する上でのITの具体的な活用法などの講演も予定しています。企業における規格情報管理体制の実現に、それらが少しでも寄与できればと考えています。
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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2012年3月15日
アイティメディア ITインダストリー事業部
エグゼクティブプロデューサー
1990年ソフトバンクに入社。「PC WEEK 日本版」の編集長を経てソフトバンク・ジーディーネット(現アイティメディア)に移り、ITmedia エンタープライズ、ITmedia エグゼクティブの編集長をつとめ、2011年4月より現職。
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