顧客の利便性向上を図るべく、インターネットをはじめ、デジタル分野での施策に先進的に取り組んできた全日本空輸。同社のこれまでの取り組みと将来に向けた青写真から、ビジネス成功の秘訣を探る。
インターネットの登場が企業のビジネス活動のあり方を根本的に変えたことに異論を挟む向きはないだろう。時間や場所を問わず、双方向のコミュニケーションが可能なインターネットを、多くの企業がさまざまな業務に積極的に取り入れてきた。その結果、ビジネスモデルが刷新され、顧客との関係が大きく変化した業界も少なくない。その1つが航空業界である。
航空機の利用機会が多い方なら、数年前から航空チケット予約が街中にある予約カウンターではなく、インターネットで行うことが当たり前になってきたことを容易に理解できるだろう。その先鞭をつけたのが1997年からインターネットでの航空券予約を開始した全日本空輸(ANA)である。
以来、同社はWebサイトを継続的に見直すとともに、新たなテクノロジーを活用した新サービスの開発を積極的に推進してきた。1999年には携帯電話からの予約を実現。2006年には国内線にチェックイン不要で搭乗できる「SKiPサービス」を開始し、Webサイトでの座席指定も可能にした。さらに2007年には、国内線の航空券を電子航空券の「eチケット」に全面移行し、座席指定まで済んでいれば、空港カウンターや自動チェックイン機に立ち寄らずに搭乗できる仕組みを整備した。その利便性の高さから、今ではANAを利用する国内線旅客のうち、インターネットでの航空券の購入割合は約7割にも達する。同社のWebサイトへの訪問者も1日あたり40万人を超える。
ANAのプロモーション室 マーケットコミュニケーション部で主席部員を務め、長らく同社のWebサイト構築に携わってきた前田欣伸氏は、「顧客の利便性向上のためにインターネットの活用を推進するとともに、スマートフォンの普及といった要因と相まって、インターネットへの顧客チャネルのシフトが、我々の予測を超える勢いでドラスティックに進んでいます」と語る。
顧客チャネルのこうした変化に対応するには、従来からのマーケティングでは不十分だ。求められるのは、Webサイトをコミュニケーションの主軸に据え、オフラインとオンラインの施策を総合的に組み合わせることで、個客との緊密な関係を維持し続けるデジタルマーケティングである。
このことを踏まえ、ANAが2007年に導入し、Webサイトの集客力強化や顧客ニーズの喚起などに活用を進めてきたのがアドビ システムズの「Adobe Marketing Cloud」である。同製品はWebサイトのアクセス遷移を解析する「Adobe SiteCatalyst」や、アクセス履歴を基にマーケティング用リストを生成する「Adobe DataWarehouse」、アクセス履歴のリアルタイム分析を可能にする「Adobe Discover」などから成るクラウド上のサービス。アドビ システムズのマーケティング本部でマーケティング インテリジェンス部 部長を務める中村晃氏は、同製品のメリットを次のように説明する。
「デジタルマーケティングでは、オンラインでの顧客の動きをどれだけ的確に把握できるかが重要です。行動から顧客の考えを読み解き、次の一手を講じるにあたり、データの精度が高いほどより正確な判断が可能になるからです。Adobe Marketing Cloudでは、あらゆるチャネルのアクセス履歴をキャンペーンやコンテンツなど多様な切り口から、 “個客”レベルで解析できます」(中村氏)
現在、ANAでは2つの切り口からデジタルマーケティングの高度化に取り組んでいるという。1つ目は、Webサイト上の顧客の“動き”を確認し、例えば、一連の予約画面で作業が中断されることの多いページを発見することで、Webサイトの改善につなげるという活動である。もう1つは、2000万人にも及ぶANAマイレージクラブ(AMC)会員を対象に、過去の履歴データの分析を通じて近い将来、利用が見込めそうな顧客を抽出し、メールマガジンを配信するといった方法で潜在顧客の掘り起こしにつなげる活動である。
そうした施策に関して、直近の成果に挙げられるのが、今年10月に実施したスマートフォン用サイトの全面リニューアルである。このリニューアルでは、従来の画面に並んでいたいくつものアイコンを「予約」、「マイブッキング」、「サポート」、「運行情報」の4つに集約することで視認性を大幅に向上。併せて、予約後の各種操作をマイブッキング(マイページ)からすべて一元的に行えるようにした。加えて、マイブッキングを訪問した顧客には、顧客の履歴データを基に、料金の支払いや座席の予約を促すといったガイド機能を実装することで、サービスレベルの底上げを図っているのである。
「Adobe Marketing Cloudを活用することでスマートフォンの解析も可能です。その結果、従来からの携帯電話(フィーチャーフォン)では困難であった“個客”の動きを可視化することも可能となりました。そこで明らかになったのは、スマートフォン利用者の方がWebサイトに滞在する時間が圧倒的に短いということ。そこで、よりシンプルな操作を実現しつつ、利便性の向上を図ることが今回のリニューアルの最大のテーマとなりました。このように、顧客の行動を可視化されたデータとして把握し、そのデータを基に従来の仕組みを見直すというのが我々の基本的なアプローチです。その効果まで客観的なデータを基に検証できるのも、デジタルマーケティングならではの強みと言えます」(前田氏)
デジタルマーケティングの高度化に向け、ANAは組織面の見直しも進めている。メールマガジンの精度向上のため、Webマーケティング部隊とCRM(顧客情報管理)部隊が協業できる体制を整えたのに続き、今年4月には宣伝部隊もそこに合流。顧客とのあらゆるチャネルに一元的に対応できる組織を着実に作りつつある。
「各種のマーケティング施策の効果をさらに高めるには、Webサイトやメール、さらにはリアルな広告などへの顧客の反応に機敏に察知し、何らかのコミュニケーションにつなげる必要があります。統合型コミュニケーションを実践するためにも、組織の一元化が欠かせないのです」(前田氏)
各部門の人員はそれぞれ30人ほど。うち、Webサイトを担当する20人がマーケティング施策の検証のため、日々、アドビのツールを使ってアクセス解析に取り組むことで、将来的な顧客ニーズを高い精度で予測している。「それらのデータ分析を基に、Webや広告などによる提案活動を展開することで、新たなビジネス機会の創出につなげているのです」と前田氏。アドビのツールはリアルタイムにマーケティング関連の分析が行える点で、ANAの一連の取り組みに極めて合致しているという。
もっとも、現状ではまだ不十分というのが前田氏の考え。いわゆるビッグデータの分析を通じて何らかの気付きを得るには、仮設の立案と検証を欠くことができない。だが、現状の取り組みは個々の施策分析にとどまっているのだという。この状況を改善すべく、新たに計画しているのが、日々の施策から一歩引いた視点で仮設の検証にあたる分析専任者の育成である。
「分析に精通したマーケティング担当者がその役割を負うことでしょう。シナリオを作るには、自社の商品やサービスにも精通している必要があるからです。そして、専任者が現場の担当者、さらには広告代理店などを巻き込み、連携してさまざまな効果測定と改善に迅速にあたる。これが私たちの描くデジタルマーケティングの将来像です」(前田氏)
前田氏が今後、デジタルマーケティングにおいて無視できない存在になると語るのがFacebookに代表されるソーシャルメディアである。その理由の1つが情報の拡散性の高さだ。
「ソーシャルメディアは、顧客の共感を得ることで、ネットワークが広がり、その情報が伝播していく。企業としても、そうした動きを捉えることが非常に重要である」と中村氏は強調する。ANAでも2011年1月にFacebookページを開設。すでに78万人ものファンを獲得している。
ただし、ソーシャルの活用には課題もある。これらを具体的にビジネスにどう生かすべきかの明確な“解”は今のところ存在しない。事実、ANAでもFacebookのアクセス分析にあたり、集客やマネタイズの観点からのKPI(Key Performance Indicator)は設定されていないという。
にもかかわらず、ANAがソーシャルにこだわるのには確固とした理由がある。ソーシャルの利用を通じて、インターネットでの顧客の動きをとらえることが可能になりつつあるからだ。
「これまでは、自社サイト以外の顧客の動きは技術的に可視化が困難でした。しかし、今では第三者配信なども併せて活用することで、外の世界での顧客動向も徐々に把握できつつあります。その手法が確立した暁には、コミュニケーションの軸足をソーシャルに移すことも検討すべきでしょう」(前田氏)
一方で、ソーシャルなどの新しいサービスを利用する端末は、従来のPCに限らず、スマートフォンやタブレットなど着実に多様化を続けている。こうした中、顧客の利便性や満足度を高めるためにも、さまざまなマルチデバイスへの対応が肝要となる。クリエイティブツールに強みを持つアドビは、従来からその実現を支援してきた。
「多様なデバイスからのアクセスを分析し、その行動からカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の改善点を洗い出すことで、コンテンツの見直しにつなげる。この循環を生み出すことがデジタルマーケティングの“肝”です。高度なアクセス解析機能を備えたAdobe Marketing Cloudであれば、その実現も決して困難ではないのです」(中村氏)
対面では実施が困難だった施策の中には、オンラインの世界で容易に行えるものも少なくない。テキストや映像、音声のみならず、場合によっては3D映像まで組み合わせたサービス紹介も、きめ細かな属性に合わせたコンテンツの展開も、テクノロジーの進化によって容易に実現できるようになった。「それらを最適な形で採用し、いかに競合他社に対する優位性を顧客に伝えるか。LCC(格安航空会社)の新規参入が相次ぎ、競争のさらなる激化が予想される中で、この命題に向き合い続けることこそ、我々のミッションにほかならないのです」と前田氏は力を込める。
「アドビはデジタルマーケティングの分野において、全世界で幅広い知見を持っています。顧客の競争優位性を確立するためにその経験を活用いただけける点、さらには事業分野ごとの異なる課題に対し、柔軟なカスタマイズ性で応えられる点も、Adobe Marketing Cloudが世界の先進企業で選ばれている理由です」と中村氏も同調する。
最近では、旅先での観光情報や口コミ情報が容易に得られるスマートフォン向けアプリ「旅達空間」を提供するなど、顧客の満足度を高めるべく多様な角度からデジタルマーケティングを推進するANA。それらの幅広い施策をアドビのツール群がこれからも支えていく。
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提供:アドビ システムズ 株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2012年12月25日