限定的な取り組みから、生産性向上や人材確保のための重要な経営課題として「働き方変革」に取組み始めた企業が増えている。企業ITは働き方変革にどのような形で関わっていくべきなのだろうか? 大手企業や情報システム企業で実際にワークスタイル変革に取り組んでいるキーマンに意見を聞いた。
「ワークスタイル変革」というキーワードが企業の間で取り沙汰されるようになって、既に久しい。事実、一部の企業では、人事制度の改革も含めた大胆なワークスタイル変革にかなり早くから取り組んでいるが、これまではあくまでも「一部の社員を対象にした、限定的な取り組み」という印象が強かった。
しかし、東日本大震災に伴いBCPの重要性が再認識され、また政府が「女性活躍」「一億総活躍」といった人材活用戦略を打ち出すにつれ、これまでは限定的な取り組みに留まっていた企業でも、生産性向上や人材確保のための重要な経営課題として働き方変革に本格的に乗り出そうとしている。
では、企業がこうした経営戦略を計画・遂行していくに当たり、経営を下支えするITはいったいどのような役割を担い、そして企業の情報システム部門や情報システム機能子会社は働き方変革にどのような形で関わっていくべきなのだろうか? 本稿では、大手企業や情報システム企業で実際にワークスタイル変革に取り組んでいるキーマンを座談会にお招きし、忌憚のないご意見をうかがった。
有馬康生氏(大学法人 総務部 部長)
大森剛氏(金融系システム子会社 企画部 執行役部長)
酒井尚也氏(メーカー系SI企業 経営企画部 部長)
大谷重幸氏(製薬企業 情報システム部 部長)
神田徹氏(独立系SI企業 企画部 部長)
(順不同、すべて仮名)
それぞれの企業における働き方変革への取り組みは企業ごと、あるいは業界ごとに抱える事情や状況に応じてさまざまだ。まずは各企業における働き方変革の現状と成果、そして課題について聞いた。
酒井氏が経営企画部長を務めるのは、歴史のある大手製造業の情報システム子会社。中期経営計画の大きな柱の1つとしてワークスタイル変革を打ち出しており、酒井氏は経営側からその取り組みをリードする立場にある。同社では柔軟な働き方を支援する制度や就業規則はかなり充実しているが、その一方では「育児休暇から復帰した女性社員が、子どもが小学校に進学するころに差し掛かる、いわゆる"小1の壁"に阻まれたり、働き盛りの40代の社員が親の介護のために退職を余儀なくされるケースも目立ってきています」とも話す。優れた人材に引き続き働いてもらうためには、必ずしも現在の制度だけでは十分とは言えないのだという。
大森氏が働くのは大手損保の情報システム子会社。親会社の営業マンや代理店向けにスマートデバイスを活用したモバイルワークのソリューションを提供している。半年ほど前から企画部を統括する部長になった大森氏は、社内の働き方変革をリードする立場に就いたが、自社における働き方変革の現状について「一日中社内で開発作業に当たる社員が多いため、働き方変革はあまり進んでいないのが実情ですね。それに金融系の会社なので、とにかくセキュリティ要件が半端なく厳しいんです!」と、「SI企業特有の課題」「金融業界特有の事情」を指摘する。今後は、セキュリティをきちんと担保しつつ、モバイルワークや在宅勤務といったワークスタイル革新をいかに進めていけるかが課題だと話す。
一方、大谷氏が働く製薬業界では、MRを中心にモバイルの活用がかなり進んでいるイメージが強い。事実、多くの製薬会社では、モバイルを活用した営業スタイルの導入で効果が上がったところ、そして上がらなかったところを見極め、後者については改善策を打ち出しながらさらなる定着を図っている。大手製薬会社の情報システム部で働く大谷氏は、「単にデバイスを配るだけではなかなか効果が上がらないことも同時に分かってきました。デバイスを生産性向上に役立てられるための、ソフトウェアも含めたシステム全体の仕組み、そして業務フローそのものをきちんと設計することが重要だと痛感しています」と、今後の取り組み強化に向けた課題を話す。またタブレット端末ではスムーズな入力が難しいため、アプリで簡単に入力できる工夫も欠かせないと話す。
神田氏が働く大手システムインテグレーターも、顧客企業のオフィスに常駐してシステムの開発や運用作業に当たる従業員が大半を占めるため、さまざまなツールを活用してコミュニケーションを活性化することに熱心だ。「同じ部署に属している従業員同士でも、普段顔を合わせる機会が少ないんです。なので、コラボレーションツールを早くから導入して、社内のコミュニケーション活性化を図ってきました。導入当初はなかなか利用が定着せずに苦労したのですが、ユーザーにヒアリングを行ったり、使い方をレクチャーするなどして数年がかりで取り組みました」今では社外で仕事をする従業員の間でかなり活用されるようになったという。
大学の総務部で情報セキュリティに関する施策を統括する有馬氏だが、少子化で学生数が減っていく厳しい環境下にあって、グローバル化を図ったり、研究開発機関としての価値を高めていかなければならないなど、抱える課題は一般企業と変わらない。「ペーパーレス化とクラウドの導入で業務効率化を推進しようとしています。本当はタブレット端末をすべての教職員に配りたいのですが、実際には私物のモバイル端末を業務で使うBYODの状態になっています」。まずは業務の効率化を図るところから、手探り状態での取り組みが続く。
働き方の変革は、従来の働き方を単にモバイルデバイスで「いつでもどこでも」できるようにすることではない。例えば「会議室で長時間拘束される対面の会議を減らす」「いつでもどこでも必要に応じて意見交換できる」といったように、企業の働き方の文化そのものを変えていく必要がある。課題は、いかにデバイスやデータのセキュリティを担保するかだけではないのだ。
大谷氏が勤める製薬会社では、MRを中心に社員にタブレット端末支給することで一定の効果を上げているが、現在はさらにBYODの導入も検討しているという。「会社が支給するタブレットやノートPCを従業員がわざわざ持ち帰らずとも、私物のスマートフォンからちょっとした仕事の情報に手軽にアクセスできるようになれば、さらに生産性は向上すると考えています」
一方、大手損保のシステムを開発・運用する大森氏の会社では、セキュリティに対する要件が非常に厳しい。そのためBYOD導入のハードルは、他の業界と比べるとやはり数段高いようだ。高度で高価なMDMやMAMを導入してBYODを進めるよりは、「現時点では、会社貸与のモバイル端末で、MDM+セキュアブラウザの仕組みを使って、アクセスできる業務アプリケーションを少しずつ増やしていきたい」と話す。
その一方で最近、新技術の調査を行う部署を発足させ、さまざまなITツールを使った在宅勤務の試行と評価も行っているという。「実際に社員が2カ月間、一切出社せずに在宅でのリモートワークを試みました。ビデオ会議やチャットでお互い空いている時間に確認するなど、効率的な仕事ができ効果を実感できました。ただし、この場合は上司の理解があったからで、やはり、対面の会議を介さないと仕事が進まない、という思い込みを先ず変えないことには、働き方変革はなかなか進まないと痛感しましたね」
大学で日々行われている非効率な会議に課題を感じている有馬氏も、「大学ではとにかく、会議が多い。しかも、その会議の進め方も非効率的です。議題についての情報共有と論点の整理、ディスカッションをある程度SNSのようなツールで済ませておけば、会議の数や時間はかなり減らせるはずです。現在、ペーパーレスと並んで会議を減らす取り組みに力を入れているところです」と話す。
ITの仕組みのみならず、制度や文化の面も含めさまざまな切り口から働き方変革に日々取り組んでいる各参加者だが、その取り組みを後押しするツールのひとつとして、マイクロソフトは先ごろ、「Surface Pro 4」をリリースした。Surface Pro 4と、そこに搭載されている最新OS「Windows 10」は、まさにビジネスユーザーの生産性向上を狙いとして開発されている。働き方の変革をさまざまな立場でリードする参加者たちの目に、果たしてどのように映ったのだろうか?
現在、自社のMRにノートPCとタブレット端末を持たせている大谷氏は、「Surface Pro 4のようなデバイスであれば、両方の機能を1台でこなせそうです」と好印象。「実際のところ、若手のMRからは"持ち歩くデバイスを1台にしてほしい"という要望がありますし、IT部門としてもノートPCとタブレットへの二重投資は避けたいところです」
こうした社内の声を受け、実際に大谷氏の会社では既にSurface3やSurface Pro4の評価を行っているところだという。大谷氏個人としても、今回の試用を通じてノートPCとタブレットの機能を併せ持つ使い勝手の良さと、高画質ディスプレイの出来栄えに感心したという。
大学で情報セキュリティ施策を統括する有馬氏にとっては、何より、Windows Helloによる顔認証の機能が印象に残ったという。「私自身が現在業務でセキュリティ対策を担当していることもあるのですが、Surface Pro 4の顔認証は使い勝手を犠牲にせず、セキュリティを強化できる点で注目しています。やはり今後は生体認証が主流になっていくでしょう。また、Surface Pro 4のデバイスとしてのスペックや使い勝手も十分だと感じます。特にキーボードはとてもよく出来ていますね。これならデスクでもノートPCと変わらない仕事ができます」
企業の舵取りを経営企画部長として担う酒井氏は、新しい情報共有のスタイル、そしてその使い勝手の良さを評価する。「Windows 10を本格的に使ったのは今回が初めてだったんですが、新しいブラウザ、Microsoft Edgeでブラウズした内容をすぐにほかの人と共有できるのは、コラボレーション促進による生産性向上という観点でとても便利でした」
また、多忙なビジネスマンならではの視点として、移動中の電車の中での作業性について「電車の中で同僚や部下とディスカッションする際、タブレット専用端末だと作業性に難があるが、かといってノートPCだと立ったまま操作しづらい。でもSurface Pro4なら、立ったまま資料を開いて皆で話をしながら作業ができます。また、起動やシャットダウンが高速なので、一般的なノートPCよりはるかに機動性に優れたデバイスだと感じました」と言及する。
大手システムインテグレーターの神田氏は、逆にアナログな使い方でもSurface Pro 4は威力を発揮するのではと期待する。「バーチャルなコミュニケーションだけでなく、対面のコミュニケーションでも効果を発揮するツールだと感じましたね。このSurfaceなら、紙の代わりに、相手に見せたいドキュメントを画面に映し出して、ほら! と見せられます。ノートPCも軽量になりましたが、そうは行きませんからね」
実は神田氏の会社では既に、Surface Pro4を250台導入することを決定しているという。まずはSurfaceならではの機動性が生かせる外回り業務がメインの営業職や、プリセールスエンジニアなどに支給することを予定しているが、実際の利用シーンや用途をイメージする上で今回の試用は大変参考になったようだ。
一方大森氏は、現在社内で進めているリモートワークの検証実験にSurface Pro4を導入してみたところ、現場からは大変好評だったと紹介する。
「実際に在宅勤務を行った担当者によれば、タブレット端末だけでは開発作業や資料作成の効率が落ちてしまうが、かといってデスクトップPCやA4サイズのノートPCではオーバースペックだったそうです。その点、Surface Pro4はジャストフィットだったようで、物を作る立場としてはこうした軽量なWindows環境は極めて適していると感じました」
また、Surface Pro 4に付属するタッチペンの書き味に驚いていた。「かなり自然で、これなら使えるなと感じました」。また在宅勤務を含めた新たなワークスタイルを実現する上で、「Surface Hub」と呼ばれる新デバイスの可能性に期待しているという。「会議室に設置する大型スクリーンの中でWindows 10が動くデバイスなのだそうですが、会議の参加者同士のビデオ会議やコンテンツ共有などを、Windows 10やOffice 365の機能を使って手軽に実現できるので、これまでにない新たな形の会議運営ができるようになるかもしれません」
ペーパーレスを突破口に大学で会議や業務の効率化を取り組む有馬氏も、Surface Hubに可能性を感じるひとりだ。「これまでになかった新たなタイプのソリューションだけに、とても興味深いですね。ペーパーレス化や会議の効率化のきっかけになるかもしれません」と、新しいデバイスが働き方変革につながることを期待していた。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2016年2月27日