AIの真の利活用を促進するには「失敗を許容する文化」を根付かせるべき

AIは一般的な業務システムのように実装すれば次の日からすぐ成果が出るようなものではない。トライ&エラーを繰り返すことにより精度が上がっていく。これをやらずに短期間での成果を求められると、期待外れに終わることが多い。ではどうすれば成功に導けるのか。

» 2019年06月18日 10時00分 公開
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 毎年、さまざまな分野の識者や専門家を招いて多種多様なセッションが繰り広げられる「富士通フォーラム」。今年も数多くのセッションが開催されたが、目玉セッションの1つとして行われたのが、4人の登壇者による「AIがもたらす経営イノベーションの実現に向けて 〜成功事例と失敗事例から学ぶ次世代経営スタイルとは〜」というフロントラインセッションだ。

AI導入の目的が明確でないプロジェクトは失敗する

 富士通 理事 首席エバンジェリスト 中山五輪男氏を進行役に、金沢工業大学 工学部 情報工学科 教授 松井くにお氏、株式会社Sigfoss 執行役員 COO 三井篤氏、IDC Japan リサーチバイスプレジデント 寄藤幸治氏が登壇し、それぞれによるプレゼンテーションと、全員によるパネルディスカッションが行われた。

写真右から、IDC Japan リサーチバイスプレジデント 寄藤幸治氏、株式会社Sigfoss 執行役員 COO 三井篤氏、金沢工業大学 工学部 情報工学科 教授 松井くにお氏、富士通 理事 首席エバンジェリスト 中山五輪男氏

 まずは松井氏より、アカデミアの立場から、今日におけるAI教育の在り方や、AIをより活用するためのポイントについて解説が行われた。ここで同氏が強調したのが、今日多くの企業経営者やビジネスパーソンが抱いている「AIは何でもできる」という幻想だ。

 「1980年代の第二次AIブームから既に30年が経ちましたが、その間にコンピュータの性能は劇的に向上し、高度なツールが誰でも使えるようになり、そして膨大な量のデータを利用できるようになりました。一方、30年経っても変わっていないこともあります。その1つが、“AIは何でもできる”という誤解です。この誤解や幻想に基づき、多くの企業経営者が“AIを導入すれば何かいいことがあるに違いない”と、具体的な目的を定めないままAIの評価や導入を現場に指示しています」(松井氏)

 そうした取り組みのほとんどは、失敗に終わっているという。その最大の理由は、どんな経営課題や業務課題を解決するためにAIを活用したいのかを明確化せずにプロジェクトを立ち上げた結果、やがてAIの導入自体が目的化してしまうことにある。「そもそも、何のためにAIを入れようとしているのか」があいまいなままプロジェクトが進んでいった結果、具体的な成果を出せないまま最終的に「AIは使えない」という結論に行き着いてしまう。

 続いて登壇した三井氏も、自身が経験した失敗談を引き合いに出し、AI導入の目的を明確化することの重要性を説く。三井氏がCOOを務める株式会社Sigfossは「AI Solution Provider」を掲げ、自身も「AI Business Designer」としてさまざまな企業に対してAIソリューションを提案している。あるとき、顧客企業から依頼を受けて、「退職者を予測するAIモデル」の構築に取り組んだという。

 「過去の人事考課データや給与情報、有休取得情報などをAIに学習させた結果、99.8%の精度で退職者を予測できるようになりました。しかし、これだけ高い精度を達成できたにもかかわらず、この仕組みは結局実務にはまったく役立ちませんでした。なぜ失敗に終わったのか? それは、退職が直前にならないと予測できなかったからです。既に退職を決心した時点で“この社員は退職しそうだ”と分かっても、実際には何も手を打つことができません」(三井氏)

 本来なら、「社員が働きやすい環境を作ることで離職率を下げる」という目標に向けてAIの活用法を考えるべきところが、AIの導入や精度向上自体が目的化してしまったために、こうした失敗を招いてしまったという。

経営者が率先してDXの取り組みをリードしていく必要がある

 IDC Japanの寄藤氏は「経営課題としてのデジタルトランスフォーメーション」と題したプレゼンで、経営の観点から日本企業が今日、デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI活用を進めていく上で抱える課題について論じた。同氏によれば、日本企業がDXの取り組みにおいて海外企業に後れを取っている最大の原因の1つが、「社内の分断」にあるという。

 「日本企業では、部門ごとに独自にIT予算を持ち、それぞれが独自にDXの取り組みを進めるケースが多く見られます。その結果、本来なら全社の経営ビジョンや中長期的な経営戦略に沿った形で進められるべきDXが、部門ごとに最適化された形で進められ、複数のデジタルプロジェクト間の分断が生じてしまっています。また海外ではDXの成果を“デジタルKPI”として日々の仕事の評価に直結させているのに対して、日本企業では“従業員の動機付け”“投資家に対するアピール”の材料として使われることが多いようです。つまり、日々の業務とDXの分断も起こっているわけです」(寄藤氏)

 こうした分断状態を解消するためには、経営者が経営視点から率先してDXの取り組みをリードしていく必要があると同氏は説く。具体的には、DX推進に必要な全社横断型の組織の設置や、投資の意思決定、さらにはDX推進をリードできる人材の育成や社内カルチャーの醸成といった取り組みが必要になってくるという。

 なお富士通も同じような壁にぶつかった結果、現在では急ピッチで社内カルチャーの変革に取り組んでいるところだという。中山氏によれば、かつて富士通ではさまざまな要因によりイノベーションを創出するのに苦慮していたという。

 「社内のさまざまな部門に、イノベーションを阻害する要因についてヒアリングを行ったところ、大別して4つの問題点が浮き彫りになりました。1つ目が“新規事業の棚卸しをしていないので、何度も同じ失敗を繰り返す”こと。2つ目が、“大企業特有の縦割り文化であるため、横の連携がうまく取れていない”こと。3つ目が、“短期間で成果を出せないものは否定される”という文化。そして4つ目が“人材の適切なアサインに対する意識が薄く、適材適所が実現できていない”という点でした」(中山氏)

イノベーションを阻害する4つの要因

 そこで同社は、これらの問題点を解消してイノベーションが起こりやすい企業風土に変えていくべく、2019年4月に中山氏を中心に「未来共創センター」を立ち上げ、前例にとらわれない斬新な取り組みを打ち出しているという。過去の失敗案件をあらためて見直し、そこから得られるナレッジやノウハウを掘り起こすとともに、過去の仕事の進め方にとらわれることなく、デザイン思考に基づく新たな手法を用いたプロジェクトの進め方や、トライ&エラーを重ねながら徐々に成果物を作り上げていくやり方などを取り入れつつある。

イノベーションを起こすためには「失敗を許容する」ことが大事

 このように、企業がAIなどの先進デジタル技術を使ってイノベーションを起こすためには、まずはその技術を使って「何を目指すのか」「どんな目標を達成したいのか」という点を明確化することが重要になる。これを曖昧にしたまま、経営トップの「うちもAIを使って何かやろう!」という鶴の一声で始まったプロジェクトは、やがてはAIの導入が目的化してしまい、本来の導入目的を見失ったまま何ら具体的な成果物を上げることなく失速してしまう。

 あるいは、短期間のうちに成果を上げることを経営陣から求められると、同様に失敗に終わることが多い。機械学習やディープラーニングを主体とする近年のAI技術は、大量のデータを一定期間かけて学習させ、出来上がったモデルを評価してチューニングを施し、再度学習させ……という一連のサイクルを回しながら徐々に精度を上げていく。従って短期間のうちに一気に目標に到達し、投資を回収できることは少ない。

 本セッションのパネルディスカッションでは、AIプロジェクトのこうした特性について、日本企業の経営陣は理解が不足しているとの指摘が相次いだ。

 「イノベーティブな企業文化を醸成するには、経営側は現場の失敗を許容するマインドを持つ必要があると思います。もちろん、失敗は収益悪化にもつながりかねませんから、これを許容するのは極めて難しい判断になるかと思いますが、これを行わない限り新たな取り組みにはいつまで経っても踏み出せません」(寄藤氏)

 「AIは“学習させてみて”“その結果を見て”“アルゴリズムを変えて”“データを新しくして”という一連のサイクルを回しながら徐々に精度を上げていくものですから、一般的な業務システムと同じように実装すれば次の日からする成果が出るようなものではありません。そのあたりの違いをきちんと理解した上で、“捨て金を使う意識”で投資を行う必要があります。“1年間で投資を回収するように”といった縛りを設けると、せっかくのイノベーションの芽を摘むことになりかねません」(三井氏)

 「AIのような新たな取り組みを始める際には、“売り上げを追求しない部署”“失敗を許容する部署”を作るのがお勧めです。全ての部署で失敗を許容していては確かに経営は成り立ちませんが、全ての部署が失敗を恐れていてはイノベーションは起きません。従って、富士通が提唱している“攻めと守りの『2階建て経営』”のような考え方を導入する必要があるでしょう」(松井氏)

他社と失敗を共有することで新たな気付きを得る

 AI導入の本来の目的を見失わないためには、経営の大きな戦略やビジョンとマッチした形で導入計画を立てることが重要だ。ただし、その点に拘泥するあまり、初めから大掛かりな取り組みになってしまうと、往々にして逆効果になることが多いと寄藤氏は指摘する。

 「大きなビジョンありきで始めてしまうと、初めから大きな投資になってしまい、失敗したときのダメージも大きくなってしまいます。従ってまずは小さな規模でスモールスタートしてみて、“たとえ失敗してもそこから学べばいい”という姿勢で取り組むのがお勧めです。しかし実際には多くの日本企業は、たとえ小さく始めても、それがうまくいかないと早々に見切りをつけて、“小さな失敗”で終わってしまうことが多いのが実情です」

 こうした企業風土を変えていくためにも、経営が率先して「失敗を許容する文化」を社内に根付かせることが重要だという。ただし現実的には、多くの日本企業では依然として失敗をなかなか許容してくれないため、AIを使って変革を起こそうという気概のあるメンバーがたとえ社内にいたとしても、頭を押さえつけられてなかなか大胆なチャレンジに踏み出せずにいるのが実情だ。

 こうした日本企業にありがちな課題に対処すべく、富士通では、非常に興味深いコミュニティーを立ち上げるという。全3回に分けて、AIの最新トピックについて識者による講演が行われるほか、参加者同士のディスカッションを通じてAIプロジェクトが直面する実際の課題を共有したり、ユーザー企業同士で情報交換できる場が設けられるとのこと。そこでは、AIプロジェクトにおける粘り強い試行錯誤や、社内のさまざまな抵抗への悩みといったような、極めてリアルな「AIあるある」が飛び交うことになるだろう。

 これまでにも富士通では展示会やセミナーなどを通じて先進企業の成功事例を紹介してきたが、ユーザー企業の地に足の着いた取り組みを直接聞くことができる機会は貴重だ。AI活用をさらに前進させるためのヒントをつかめるかもしれない。

●富士通「FUJITSU AI Community 2019〜 AIあるある研究会 〜」
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2019年6月30日