急速なデジタル社会への移行、新しい働き方の実現が求められる現在、どのようにしてDXを進めるべきか。DXを目指す企業が、顧客体験、従業員体験の観点から、とるべきデータ活用について解説する。
12月に開催された「ITmedia DX Summit Vol.6.」にNRIデジタル DX企画ユニット ディレクターの吉田純一氏、及びグーグル・クラウド・ジャパン 執行役員 Looker事業本部長の小澤正治氏が登場。「withコロナ時代にDXを実現するためのCX/EX戦略とは」をテーマに講演。まずは吉田氏が、DXを実現するためのCX/EX戦略について紹介した。
デジタル化は、紙やプロセスをデジタル化するDigitization(デジタイゼーション)、デジタル化によりビジネスの進め方を変えるDigitalization(デジタライゼーション)、あらゆるものをデジタル化し、事業構造や産業構造を変えるDigital Transformation(デジタル変革:DX)と、時代とともに変化してきた。
DXには、ビジネスモデルの変化とプレイヤーの変化の2つがある。例えば自動車業界では、リアルに自動車を販売することが価値の提供だったが、現在は移動手段を価値とするMobility as a Service(MaaS)という新しいビジネスモデルが登場した。またこの領域には、UberやLyftなど新たなプレイヤーも登場している。
「2つのアプローチは違うものに感じますが、提供価値を軸に業界が再編されるのは同じです。DXの本質は、顧客への提供価値に着目し、デジタルを活用してビジネスを変革すること。DXではデジタルに注目が集まりますが、重要なのは“X(ビジネス変革)”であり、“D(デジタル)”は手段です」(吉田氏)。
DXが必要な理由は、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応するためだ。以前の市場は、技術の進歩や政治、制度の変化などで顧客のマインドが変わり、求められる価値観も変化した。これは数年〜10年程度の単位で起きていたので、急いで対応する必要はなかった。しかし新型コロナウイルス禍により、状況は急変した。
数カ月単位で変化が求められる現状では、まずは「やってみる」ことが重要。NRIが実施した調査では、約26%がリモートワークを実施したと答えている。
「26%と聞くと少ない気がするかもしれませんが、イノベーター理論の定義ではキャズムを超えています。テクノロジーの進歩もあり、“やってみる”ためのハードルは確実に下がっています。いまこそDXのチャンスです」(吉田氏)
DXとは顧客への提供価値に着目し、デジタルを活用してビジネスを変革することである。顧客に提供する価値を変革するためには、デジタル接点や製品、接客サービスによる顧客体験(CX)を通じて価値を提供する。このときCXだけでなく、従業員体験(EX)も重要になる。
顧客体験を提供するのは、従業員による接客サービスが入口であり、デジタル接点や製品を作っているのも従業員である。そこで従業員に、どのような武器を持たせるか、どのような働き方をさせるかがCXを大きく変化させることになる。CXやEXを変えるアプローチはいくつかあるが、重要な要素の1つがデータである。
「データを活用することで、従業員の行動を変えたり、デジタルマーケティングの考え方でデータ自体が接客を変えたりすることが可能。デジタル接点で顧客のデータを集め、データから顧客体験を生み出すサイクルを回していくこともできます。データ活用でEXが変わり、EXが変わることで、CXが変わります」(吉田氏)
しかし、データがあればいいわけではない。さまざまなデータが集約され、従業員が使える状態になっていて、必要な人だけが使えるようになっていることが重要。こうした要件に対応するのは、オンプレミス環境では困難だが、クラウドベースのデータ活用基盤を使うことで、データ活用のハードルを下げることができる。
「オンプレミスでは、将来の拡張性も考慮した環境を構築し、年単位のスケジュール、億単位の予算が必要。クラウド活用では、クラウドサービスを契約し利用開始するだけ。数カ月のスケジュール、数百万円の予算からスタートできます」(吉田氏)。
データ活用のハードルは下がっているものの、活用できている企業は多くない。理由は、システムがない、データがない、人材がいないという3つ。これに対する処方箋は、特定の領域で、スモールスタートにより成果を上げ、段階的に拡大していくことである。
NRIデジタルでは、データ活用の入門プログラムを、Google Cloudとともに提供している。このプログラムでは、3カ月で環境構築から分析、施策の実行・評価までを実施。短期間で環境を構築できるのは、クラウドをベースとしているからである。
「ツールの活用により、データ活用のハードルは下がってはいますが、実際にはシステムの整備だけでなく、人材の育成や確保が必要になったり、ビジネスゴールの設定が重要だったりします。NRIデジタルでは、事業戦略の立案からデータ活用の実行支援まで幅広く支援していきます」(吉田氏)。
続いて吉田氏と小澤氏との対談が行われた。
小澤 DXを進めるにあたり、IT主導かビジネス主導かが問題になることがあります。オーナーシップをどのように考えればよいのでしょうか。
吉田 何のためにデータを活用するのかをまず考えるべきです。その場合、ビジネス主導の方がうまくいきやすいのですが、ビジネス部門だけでは、データ活用はできません。そこで、IT部門をうまく巻き込んでいくことが重要です。NRIデジタルでは、業務とITの両方が分かるコンサルタントが、ビジネスとITの橋渡しをすることが第1ステップと考えています。
小澤 「できるところからやる」というアプローチは、頭では分かっていても、実際にはなかなか進めないことが多いのでは?
吉田 同じ悩みを抱えている企業は少なくありません。「できることからやる」というのを悪く解釈すると、「できることだけをやる」という風に解釈されることがあります。できることを小さく始め、“結果を出し続ける”ことが重要です。
小澤 データ活用を考える場合、リテラシーの高い人、低い人というデバイドが生まれることを懸念して1歩を踏み出せないケースもあります。
吉田 過去のプロジェクトで営業部門のデータ活用のお手伝いをしたときに、経験と勘で契約が取れるベテランには取り入れてもらえず、経験の浅い若手はデータを活用し、2〜3年して定着したというケースがありました。スタート時にデバイドがあっても、時間とともに解消できることもあるという例です。
小澤 DXを考える上で、アジャイルに進めるべきだと思いますが、それにより新たなワークフローが増えてしまうことが負担になることもあります。
吉田 新しいことで仕事が増えると考えるのではなく、それによりほかの仕事が効率化され、トータルで仕事が少なくなると考えることが必要です。これまでのデータ活用は、アナリストやデータサイエンティストなどの専門家によるものでした。これからは、一般の社員がデータを活用して、CX、EXを向上させ、DXにつなげることが重要になります。
ビジネス面では、タクシー配車アプリを運営しているUberやLyft、オンライン旅行予約サイトを運営するエクスペディアなどのディスラプターがこぞってLookerを導入している。
テクノロジー面では、他社のBIツールは専門家がデータベースからデータを抽出し、データを集約して、データウェアハウスにロードすることで、はじめて分析ができるのに対し、Lookerは、ビジネスユーザーが、リアルタイムなデータを日常的に使用するSlackなどのコミュニケーションツールからデータを呼び出すなど、自由自在に活用することができる唯一無二のツールだといえる。
従来は不満に感じていながらも、昨日のデータを翌朝見られるのが精いっぱいだったが、いま必要な新鮮なデータを、いま見ることができるのがLookerの強みだ。SQLでアクセスできるデータベースであれば、どのデータベースともつながることも特長の一つ。DXを進めていくときに、既存のオンプレミスのデータベースを使ってPoCを実施できるのは大きなメリットである。
UberやLyftなど、多くのディスラプターがLookerを採用した理由は、誰が分析しても同じ結果が戻ってくる信頼のおけるデータ分析基盤が欲しいと思っており、クラウドデータベースにもっとも相性のいい分析基盤だったからである。
日本では、データのオーナーシップがIT部門で、ある部分のデータは営業部門が、ある部分はマーケティング部門などがサイロ化していることが多くあり、そのためデータの集約が困難、かつデータの定義が不透明となり、データ分析を断念していた企業が多くあった。
Lookerは、データがどこにあるかは問題ではなく、データに直接コネクションをはって、Looker上でデータを集約し、分析結果のみを表示する。データを取り込む必要がなく、データの移動がなく、セキュリティやデータガバナンスの統制もしやすい。データ集約のハブ機能を担えることが日本での導入の理由にあげられる。
ある金融機関では、営業店ごとに表計算ソフトで作成した資料をもとに実績管理を行っていたが、各営業店から本部へ報告する際のワークフローが煩雑になっていた。Lookerを導入したことで、営業担当者の実績管理が可能になり、顧客とのコンタクト状況や実績を上げた行動が何かを容易に把握できるので、生産性も向上した。
また大手製造業では、顧客から機械に関する問い合わせや部品発注などの回答に1週間程度かかっていた。こうした課題を解決し、サービス領域でのカスタマーライフタイムバリューを向上し、DXを推進したいと考えていた。複数のBIツールを検証し、探索的分析ツールとしての機能、データガバナンスによる統制、ビジネスチャットとの連携のしやすさなどを評価してLookerを採用。ペインポイントの解消に取り組んでいる。
Lookerは、2020年2月にGoogle Cloudの傘下に入ったが、Google Cloudが目指すのは、世界中のデータを整理して使いやすくすること。一方、Lookerが目指すのは、整理されたデータ、散在するデータの活用を高度化することでビジョンの親和性が非常に高い。
Google CloudとLookerの連携により、Google Workspace(旧称、G Suite)のスプレッドシートやドキュメント、スライドなどに、Lookerで作った図やグラフなどのデータを取り込む機能が今後実装される予定だ。
この機能により、Lookerのデータが変更されると、スプレッドシートやドキュメントに取り込まれた図やグラフのデータも自動的に更新されるメリットがある。またLookerは、Google Cloudのコンソールからも起動できるなど、今後Google CloudのいろいろなサービスにLookerの機能が連携される計画もある。
Lookerは、今後もこれまで通りにマルチクラウド戦略を進めていく予定だ。ユーザーはLookerを使うためのクラウドサービス、データベースなどは自由に選択することができる。
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提供:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 Looker事業本部
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2021年2月11日