デジタル変革の切り札「ローカル5G」の可能性と課題Society5.0実現へ加速する5G

Society5.0を支える中核インフラとして期待されている5G ── 通信事業者が提供する商用サービスが大都市を中心に提供され始めているが、この次世代のモバイル通信技術は、企業や自治体が課題解決のために最適化して独自に構築することもできる。いわゆる「ローカル5G」だ。製造業のスマートファクトリー化や流通業のスマートロジスティクス化、建設現場のデジタル化、交通機関での映像監視、遠隔医療など、さまざまな分野で活用が期待されているが、解決すべき課題も残されている。ローカル5Gのワンストップソリューションを提供する日立システムズ、通信デバイスとプラットフォームを展開するエイビット、そしてセキュリティベンダーのUbiq Security Japanに話を聞いた。

» 2021年03月16日 10時00分 公開
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自社の要件に最適化した独自の5G通信網を構築できる「ローカル5G」

 デジタル技術を社会の隅々にまで行き渡らせることで、私たちの生活をより豊かにするとともに、さまざまな社会課題の解決をめざす新たな社会デザイン「Society 5.0」。その実現に向け、官民を挙げてさまざまな先端テクノロジーの研究開発や社会実装が進められているが、それらの中でも中核技術として大きな期待が寄せられているのが次世代移動通信技術「5G」だ。

図1:第5世代移動通信システムの特長
エイビット 5Gビジネスユニット ビジネスデベロップメント担当 セールス・コンサルタント 櫻庭泉氏

 現在多くの通信事業者や機器メーカー、SIerなどが、来るべき5G時代の到来に備えて製品開発やインフラ整備、実証実験などを進めている。数少ない国産5G基地局メーカーとして、早くから5Gの実証実験に関わってきたエイビットもその1社だ。同社 5Gビジネスユニット ビジネスデベロップメント担当 セールス・コンサルタント 櫻庭泉氏は、従来の4G、LTEといったモバイル通信技術と比べた場合の5Gの特長について、次のように説明する。

 「4G/LTEと比較すると通信速度は20倍、接続端末数は10倍、そして伝送遅延は10分の1になるといわれています。この超高速・多接続・低遅延の3つの要素が、5Gの大きな特長になります」(櫻庭氏)

 ちなみに多くの人がイメージする「5G」とは、通信事業者が提供するユニバーサルサービスとしての5Gのことを指すと思われるが、それとは別に企業や組織、自治体などが自前で基地局を構え、限られた範囲内で独自の5G通信網を構築できる「ローカル5G」という用途も存在する。これまでも、企業が独自に自営網を築き上げられるスキームは存在していたが、無線局免許を申請・取得するための手続きが当初は煩雑であったことや、既存システムの干渉により使用できないなどの理由で、思われていたほど広く普及することはなかった。

日立システムズ ビジネスクラウドサービス営業統括本部 第一営業本部 第二営業部 第一グループ 主任 小林弘典氏

 一方、ローカル5Gは免許申請・取得のスキームがより柔軟になり、専用周波数で他システムからの干渉が軽微なことから、今後多くの企業や団体がローカル5Gの導入に乗り出すのではないかと期待されている。現在、顧客企業に対してローカル5Gの導入支援サービスを提供している日立システムズ ビジネスクラウドサービス営業統括本部 第一営業本部 第二営業部 第一グループ 主任 小林弘典氏によれば、ローカル5Gには通信事業者が提供するパブリック5Gにはない数々のメリットがあるという。

 「通信事業者の投資戦略や運用方針に左右されることなく、自社のニーズに最適化した5Gインフラを構築・運用できる点が最大のメリットです。また自社内に閉じたネットワークを構築できるため、セキュリティ対策の面でも安心感が強いといえます」(小林氏)

 またエイビットの櫻庭氏は、ローカル5Gが持つ「柔軟なカスタマイズ性」をメリットの1つとして挙げる。

 「通信事業者のサービスは、不特定多数の利用者に安定してサービスを提供しなくてはなりませんから、ユーザーから挙がる個別のリクエストに事細かに対応することは難しいです。しかしエイビット社製ローカル5G機器の場合、通信速度や品質をユーザーに応じてチューニングが可能であるため、超高速な通信や超低遅延の通信、アップリンク通信の充実など、自社の用途やニーズに応じて環境を柔軟にカスタマイズできる点が大きな魅力です」(櫻庭氏)

多様な業種・業態のさまざまな用途においてローカル5Gへの期待が高まる

日立システムズ クラウドサービス事業部 ネットワークインテグレーション本部 第一部 第一グループ 技師 田辺弘樹氏

 では具体的にどのような用途やシーンにおいて、ローカル5Gの活用が期待されているのだろうか。日立システムズ クラウドサービス事業部 ネットワークインテグレーション本部 第一部 第一グループ 技師 田辺弘樹氏によれば、現在製造業においては「スマートファクトリー」の通信インフラ技術としてローカル5Gに大きな期待が寄せられているという。

 「生産ラインの制御データを伝送する仕組みとして、あるいは工場内に設置した監視カメラの映像データを伝送する手段としてローカル5Gの活用が想定されています。ローカル5GのSub6帯(4.6GHz〜4.9GHz帯)は広い範囲に高品質の電波を飛ばせますから、Wi-Fiのように大量のアクセスポイントを設置する必要もなく、安定した無線通信環境を構築できます」(田辺氏)

 また「ネットワークスライシング」という技術を使えば、帯域を用途ごとに分割して個別に制御できるため、例えば生産ラインの制御データとカメラの映像データの帯域を分けたうえで、前者の品質が決して落ちないよう帯域の優先制御を行うこともできる。また「スマートファクトリー」の通信インフラとして、「低遅延」を強く求められている。5Gを活用すれば、これまで無線化が難しかった制御システムのコントロ−ルやエッジ処理、工場内や物流センター内で稼働させるAGV(無人搬送車)の運行をより正確に制御できる可能性がある。

日立システムズ クラウドサービス事業部 ネットワークインテグレーション本部 第一部 第一グループ 星野絢氏

 同じような効果は、自動車や鉄道の自動運転や遠隔運転の分野においても期待されている。また日立システムズ クラウドサービス事業部 ネットワークインテグレーション本部 第一部 第一グループ 星野絢氏によれば、医療業界においてもローカル5Gの活用が大いに期待されているという。

 「リモートで診断や治療、手術を行う遠隔医療の分野では、5Gの高速・低遅延の特性が大いに役立ちます。また病院内の内線電話として長らく使われてきたPHSのサービス終了に伴い、院内の内線網のインフラとして5Gを活用しようという動きも出てきています」(星野氏)

 一方、高度な暗号化技術で知られる米国のセキュリティベンダーUbiq Security Japanの 代表取締役社長を務める内田太樹氏は、ローカル5Gに対するセキュリティの取り組みについて次のように話す。

Ubiq Security Japan 代表取締役社長 内田太樹氏

 「Society 5.0が実現すると、個人のあらゆる属性情報がデジタル化され、5Gを通じてやりとりされるようになります。例えばIoTカメラを使った顔認証や静脈認証の情報などは、極めて機微な個人情報に当たります。5Gが普及すると、こうした大量の個人情報がIoT機器や5Gネットワークで扱われることになりますから、個人情報保護の取り組みはよりシビアさを増してくると考えられます。このような状況を踏まえ、現在弊社では日立システムズと共同で、5GやIoTの上で個人情報を安全に扱える仕組みの開発に取り組んでいます」(内田氏)

これからローカル5Gを導入・活用するにあたってクリアすべき課題とは?

 ただし、ローカル5Gを企業が自在に利用できるようになるまでには、クリアすべき課題もまだ残されている。日立システムズの田辺氏によれば、現時点ではコストのハードルがまだ若干高いという。

 「ローカル5Gの基地局の設置に掛かるコストは、まだ高いと言わざるを得ません。ただし今後ローカル5Gが普及していくに従い、価格も徐々に適正化されてくると思われます。具体的には今年から来年にかけて導入しやすい価格になってくると予想されますので、その時期の導入を見越して現在さまざまな企業と導入計画を立てているところです」(田辺氏)

 一方、事前準備を進めるうえでは、導入を予定している現場の電波状況をあらかじめ調べておく必要がある。日立システムズの星野氏によれば、この事前調査がローカル5G導入の足かせになるケースもあるという。

 「電波状況を調べるためには実際に基地局を設置して電波を飛ばす必要があり、そのためには当然ながら免許申請などの手続きも必要になり時間もコストもかかってしまいます。本来ならあらかじめ電波干渉や電波強度の状態を調べてから具体的な基地局導入の検討に入りたいところなのですが、その事前調査のために基地局調達や免許申請が必要というのはやはりハードルが高いといえるでしょう」(星野氏)

 そのため日立システムズでは、免許不要の電波を使って電波状況を測定して、適切な基地局配置や無線通信システムの設計を支援する「ローカル5Gアセスメントサービス」を提供している。これを使えば、企業は基地局を導入する前にローカル5Gの導入予定環境の事前調査を行うことができる。

 また同社ではこのアセスメントサービスにとどまらず、PoCや免許申請の支援、システムの構築やチューニング、さらにはその後のシステム運用保守まで、ローカル5Gの導入・運用に必要なあらゆる作業をワンストップで支援しているという。

 日立システムズの小林氏は、「基地局の選定においても、弊社はSIerとして中立の立場から特定のベンダー製品に偏ることなく、お客さまのニーズに即した製品を提案するようにしています。その中でもエイビットの製品は、数少ない国産メーカーの基地局として高い品質や柔軟なカスタマイズ性を備えており、これまでも多くのお客さまのPoCにおいて採用されてきました」と話す。

図2:ローカル5Gワンストップサービス

5Gを使った映像解析の実現に向けて「セキュア映像通信サービス」の提供を開始

 また、今後ローカル5Gが普及していくうえで、どうしても避けて通れないのが「データのプライバシー保護」の問題だ。数多ある5Gの用途の中で、現在有望視されているのが「映像データの大容量・低遅延伝送」だ。既に述べたように、自動運転や遠隔治療などの分野で大きな期待を集めている技術だが、Ubiq Security Japanの内田氏、日立システムズの小林氏によればこれを可能にするには高度なセキュリティ技術が欠かせないという。

 「例えば、監視カメラの映像をAIで解析するようなシステムがあったとしましょう。その場合、監視カメラが直接つながっているローカル5Gのネットワーク内では比較的データの安全が保たれていたとしても、それをパブリッククラウド上のデータベースに送って集計・分析処理を行うとなると、インターネットやクラウド上で映像データが盗聴されてしまう危険性が出てきます。そのため、エンドツーエンドでセキュアに映像データを扱えるようにする高度な暗号化技術とシステム設計が必須になってきます」(内田氏)

 「日立システムズではパブリッククラウドの活用という観点で、マルチクラウド環境の構築や運用、データ活用など豊富な実績があるものの、映像データや生産データの通信時のセキュリティ対策については課題があり、Ubiq Securityの暗号化ソリューションが有効であると感じています」(小林氏)

 しかし当然のことながら、データを高度に暗号化するとそれだけ処理時間がかかる。せっかく高速・低遅延が売りの5Gを導入しても、暗号化処理に時間がかかってしまってはそのメリットも帳消しになってしまう。そこで日立システムズは、Ubiq Securityの協力を得て「セキュア映像通信サービス」と呼ばれるソリューションを開発、2021年2月18日より提供開始した。

 これはUbiq Securityが特許を取得している特殊な暗号化処理技術(AES256による暗号化)をベースに日立システムズが開発した暗号化プログラムを監視カメラ内に搭載することで、映像データの高度な暗号化処理を高速に行うというもの。この仕組みにネットワークインフラの構築や管理システム、カメラ取付工事などをセットにして提供する。このサービスを導入することで、従来はトレードオフと考えらてれきた映像データの「プライバシー保護」と「高速・低遅延伝送」を両立できるようになるという。

 日立システムズの田辺氏は、「監視カメラによる防犯や、遠隔医療用途などにおいては、顔や患部がはっきり映っている必要がありますが、道路の混雑状況を監視するような用途においては、人物やナンバープレートといった個人情報はマスキングしてデータを“秘匿化”したうえで利用する必要があります。弊社が取り扱う監視カメラではこのマスキングもカメラ内で処理する技術を持っており、今後もこうした技術の研究開発を進めることで利便性と安全性を両立させたローカル5Gの活用を進めていきたいと考えています」と話す。

図3:5Gの普及を見据えた「セキュア映像通信サービス」

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提供:株式会社日立システムズ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2021年4月15日