東京海上日動が進めるDXの神髄は「インフラ戦略」にあり――MicrosoftとVMwareは既存インフラのクラウド移行で企業のDXを支援

デジタルテクノロジーによるビジネスの変革は、導入後すぐに成果が得られるというものではない。情報システム部門には変革のけん引役として、DXのためのインフラ構築、プロセス整備、そして組織の整備と人材育成の戦略的な推進が求められているがどのように進めていくのがいいのだろうか。

» 2022年07月06日 10時00分 公開
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 2022年6月、ITmedia エグゼクティブ編集部主催のオンラインプライベートセミナー「インフラ、組織、プロセス──事例に学ぶDX推進の正攻法」が開催された。本イベントでは、先進的なDX施策を推進していることで知られる東京海上日動のDX事例が紹介されたほか、DX推進に有効なクラウドインフラ技術であるAzure VMware Solutionもあわせて紹介された。

東京海上グループのDXを支える「インフラ」「組織」「プロセス」

東京海上日動システムズ 常務取締役 小林賢也氏

 本イベントの冒頭には東京海上日動システムズ 常務取締役 小林賢也氏が登壇し、「DXを実現するインフラ・組織・プロセス」と題した講演で同社が現在進めている東京海上グループのDXの取り組みについて、特にインフラや組織、プロセスの側面に焦点を当てながら紹介を行った。

 小林氏は東京海上グループが進めるDXの特徴について、次のように述べる。

 「私たちシステム子会社を含むIT部門が取り組みの初期段階から深くコミットし、アプリケーション開発の前にまずはインフラの整備から始めた点が極めてユニークだと思います」(小林氏)

 同グループのITインフラは大きく分けて、契約管理システムを中心とした「SoR(System of Record)」、顧客接点を担う「SoE(System of Engagement)」、そしてデータ統合/活用基盤の「SoI(System of Insight)」の3つに分かれる。

DXを推進するインフラ戦略

 DXを本格的に推進する以前にも顧客接点のデジタル化を図り、顧客体験の向上に取り組んできたが、SoEとSoRが「蜜結合」してしまい、DXに不可欠な「システムのアジリティ」が失われてしまう。データも散在することになり、活用するにもその都度対応しなければならない状況に陥ると危惧していた。

 そこで同社では、これら3つのインフラ間の連携をAPI基盤を介した「疎結合」とすることで変化への柔軟な対応が可能なインフラにするという目標を立て、2年前にはその構築をほぼ終えた。現在はこのインフラの上に、DX実現のためのアプリケーションを順次構築しているところだ。

 SoEとSoI、SoR、それぞれの内部のアーキテクチャも、DXに適した形にそれぞれ進化させている。SoEは顧客向けサービスをスピーディーに開発できるよう、クラウド環境上にインフラを構築。SoIも同じくクラウド上にデータレイクやデータ分析基盤のインフラを構築している。一方、SoRはメインフレーム上で稼働する契約管理システムが依然として中核を占めているが、こちらも現在DXに適した形へのモダナイゼーション作業を進めているところだという。

 これら3つのインフラ間の連携はAPI呼び出しによって行うこととしたほか、外部とも連携するためのAPIゲートウェイの基盤構築も、実は上記3つのインフラに先んじて着手していたという。

 「外部のパートナー企業とAPIを通じてデータを連携する“APIエコシステム”のニーズが高まっていたことから、APIゲートウェイの構築には早くから着手していました。社内のシステムだけではなく社外からもアクセスしやすいよう、クラウドのインフラ上にAPIゲートウェイ製品を導入しました」(小林氏)

 また人材の面においても、新たな取り組みを始めた。単にSoIにデータを蓄積するだけでは、DX推進のためのデータ利活用は実現できない。データを有効活用するには、高度なデータ分析スキルを持つデータサイエンティスト人材が必要になるほか、収集したデータを「意味ある形」に加工できる「データスチュワード」と呼ばれる人材も不可欠だ。そのため同社は現在、独自にデータスチュワードの育成を進めており、データサイエンティストと合わせてチームを組成している。

 さらにはグループ内のDXの取り組みを統制の取れた形で進めるために、東京海上日動のIT部門に「デジタル案件相談窓口」を設けて、DX案件は必ずここを通すようルール化するとともに、東京海上日動システムズ内に設けた「デジタルイノベーション本部」が東京海上日動のビジネス部門と連携を取りながら個々のDX案件を進める体制とした。

 「個々のDXプロジェクトは基本的に内製で進めており、アジャイル開発手法を導入しています。これをスムーズに進めるために、東京海上日動の役員クラスにもアジャイル研修を受けてもらい、アジャイルのプロセスをグループ全体に浸透させる取り組みにも力を入れています」(小林氏)

オンプレミスシステムのシンプルなクラウド移行を可能に

日本マイクロソフト インテリジェントクラウド統括本部 Azure第二営業本部 本部長 飯田昌康氏

 続いて日本マイクロソフト インテリジェントクラウド統括本部 Azure第二営業本部 本部長 飯田昌康氏が登壇し、「Azure VMware Solutionを活用したオンプレミスVMware vSphere環境のマイグレーション」と題した講演でマイクロソフトが推奨するDXのためのインフラソリューションの紹介を行った。

 現在世界中の企業が、DXのためのインフラとしてマイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」を採用しているが、これをVMwareのプライベートクラウド技術と融合させたソリューションが近年注目を集めている。両社は現在、クラウド分野において密接なパートナーシップ関係にあり、共同でさまざまなソリューションを展開しているが、中でもAzure上でオンプレミスのVMware製品によるプライベートクラウド環境を再現できる「Azure VMware Solution」(以下、AVS)は、オンプレミス上のVMware製品による仮想化環境をクラウドへ移行してDXを推進するための有効な手段の1つとして大きな期待を集めている。

Azure VMware Solution

 VMware vSphere、vSAN、NSX、HCXといったVMwareの仮想化技術をAzureのクラウド環境上でそのまま適用できることから、オンプレミスシステムを短期間かつ低コストでクラウドへ移行でき、かつオンプレミスとクラウドが混在するハイブリッドクラウドの管理性にも優れている。またオンプレミスとクラウドの間で仮想マシンを自在に移動できることから、災害対策サイトをシンプルな構成で実現できる。

 さらには、クラウドへ移行した後のシステムやアプリケーションのモダナイゼーションを進めたい場合、AzureのPaaSサービスやフルマネージドサービス、VMware Tanzuを使うことができる。さらにMicrosoft Cloudのさまざまな機能と連携させることで、セキュリティやガバナンスに一貫性を確保しながらレガシーなアプリケーションをクラウドネイティブのアーキテクチャへと段階的に進化させることも可能だ。

 こうしたことからマイクロソフトでは現在、VMwareのプライベートクラウド技術を採用している企業に対して、DX推進のための有効な手段の1つとしてAVSの導入を推奨しているという。

 「AVSを使ってオンプレミスシステムをクラウドに移行することで、サポートが終了したWindows Server/ SQL Serverの延長サポートが一定期間無償で受けられたり、Microsoft 365のライセンスが持ち込めたりと、Azureならではのさまざまな特典を受けることもできます。もちろん、移行のための支援プログラムも用意しています」(飯田氏)

AzureファミリーであるAVSならではのソフトウェア親和性

オンプレミスのVMware vSphere環境をAVSへと移行したBIPROGY

BIPROGY 情報システムサービス部 企画室 基盤課 課長 山口信彦氏

 BIPROGY 情報システムサービス部 企画室 基盤課 課長の山口信彦氏からは、「Azure VMware Solution事例ご紹介」と題したプレゼンテーションで、BIPROGY社内で実際にAVSを全社規模で導入した事例の紹介が行われた。

 同社の社内システムではもともと、VMware製品を使って構築したオンプレミスの仮想化基盤上で200台以上の仮想マシンを稼働させていた。しかしハードウェアの保守サポート期限が迫ってきたことから、次期システムのアーキテクチャ検討や製品選定を始めた。そこで有力な候補の1つに挙がったのがAVSだったという。

 「ハードウェア関連の運用負荷を下げるためには、クラウドへの移行が最も有効です。その一方で、既存のVMware vSphere環境の運用ノウハウもできればそのまま引き継ぎたい。AVSならこの2つの要件を両立できると考えました」(山口氏)

AVS採用までの背景

 そこでAVSへ移行した場合とオンプレミスの運用を継続した場合のコストシミュレーションを実施してみたところ、5年、10年単位で長期的に利用した場合にはAVSの方がコストを抑えられるとの結果が出た。またクラウドのIaaSサービスを利用する場合との比較検討も行ったが、こちらもAVSのノード上に仮想サーバを効率的に集約することで、IaaS以上の費用対効果が得られるとの試算結果が得られた。

 こうした検討結果を受けて、同社はオンプレミスの既存VMware vSphere環境をAVSへ移行することを正式に決定。VMware HCXの「Bulk Migration」を使い、システム単位で複数の仮想マシンを無停止でAVSに移行する計画を立てるとともに、従来のオンプレミスのVMware vSphere環境で利用していたものと同じツールを使った運用監視体制も構築した。

 移行作業は大きなトラブルもなくスムーズに運び、移行後も安定して稼働しているという。AVSを安定的に運用し、かつ費用対効果を得るためのコツとして、山口氏は「まずは3ノードという小さな規模で運用を始めて、仮想マシンの集約率を最適化しつつ、キャパシティが足りなくなった時点でノードを追加する方法をお勧めします。これによりトラブルの影響度を最小限に抑えられるとともに、コストも最適化することができます」と話す。

 なお同社では今後、まだオンプレミス環境で稼働している別の基幹システムのAVS移行を検討するとともに、社外の顧客に対しても自社での運用ノウハウを生かしたAVSの構築サービスを積極的に提案していくとしている。

実際にAVSを導入して

 本イベントの最後には、視聴者から寄せられた質問に対して登壇者が回答するQ&Aコーナーも設けられた。複数の視聴者から、DXを推進するに当たり組織面で留意すべき点について質問が飛び、多くの企業のマネジメント層がDX推進のための組織体制の構築に苦慮している現実が垣間見えた。

 それに対して登壇者からは、「既存のIT組織の開発・運用プロセスやITガバナンスに関するポリシーはレガシーシステムを前提としているため、DXで求められるスピード感や柔軟性とはそぐわないことも多い。そのため既存のIT組織とは切り離したDXに特化した組織を設け、レガシーシステムとは異なるプロセスやガバナンスの下にDXを推進するのがいいのでは」といったアドバイスがあった。

 またDX人材の確保や育成についての質問も挙がったが、これに対しては「これまでレガシーシステムの運用を担当していた人材をDX領域へシフトしていく必要があるが、そのためにはリスキリングの時間や投資が必要」「そもそもレガシーシステムの担当者をDX領域にアサインするためには、まずはレガシーシステムのモダナイズが前提となる」といったアドバイスが寄せられた。

 さらには、レガシーシステムのモダナイズのための投資の必要性について経営陣の理解を得るのが難しいという相談も寄せられたが、これに対して登壇者からは「レガシーシステムのモダナイズそのものの意義を技術に明るくない経営陣に理解してもらうのは難しいため、デジタル技術を使った顧客接点の強化や、データ利活用の促進といったDX寄りのインフラ戦略とセットにしてレガシーのモダナイズも提案すれば、より受け入れられやすくなるのでは」との提案があった。


 冒頭の小林氏の事例紹介にもあった通り、DXをスムーズに推進するためには組織や人材面の施策とあわせて、やはり適切なインフラ戦略の立案・実行が欠かせない。東京海上グループのように自社システムのクラウド化を迅速に進めつつ、オンプレミスのレガシーシステムとのハイブリッドな運用も実現するためには、AVSのようにクラウドとオンプレミスの間にうまく橋を架けてくれるような技術が求められる。DX推進のためのインフラ戦略を検討する際には、ぜひ選択肢の1つに加えてみてはいかがだろうか。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2022年8月5日