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小林栄三「物事に関心をもち続けてこそ、時代が見えて来る」(後編)西野弘のとことん対談(2/2 ページ)

信販事業、コンビニエンスストア、オンライン証券などに強みをもつ伊藤忠商事。小林栄三社長がみせたのは総合商社の明日を模索する戦略家の顔だった。

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小林 いや、そこが難しいところですわ。現在、伊藤忠には7つの社内カンパニーがあり、グループ670社、海外130拠点、商品コードも500万ぐらいある。そのデータが共有できないのです。昔から伊藤忠は“野武士集団”といわれ、単体4000人の社員は4000商店と言い換えてもいいくらい事業欲はある。けれど、1人ひとりの頭の中は、例えばコンビニの展開、消費者ローンのサービス、あるいはアパレルのブランドと、担当ごとにクローズしている。

小林栄三氏と西野弘氏
小林栄三氏(左)と西野弘氏(右)

西野 総合商社の“総合”が活かせないんですね。

小林 そうです。繊維のお客さんは食料のお客さんになるかもしれないのに、その情報は属人的にはつながっても、システマティックに上がって来ない。だから、改めてグループの情報化投資を加速しようと思っています。

 どういう製品がどこで売れているか、連結ベースのデータを瞬時に把握できるようにする。言うのは簡単ですが、なかなか難しくて、現行の中期経営計画の最大の課題と思っています。

西野 最後に経営者の立場から、教育問題についてご指摘いただけますか。

小林 愛情の反対語は何でしょう。「無関心」ですね。逆に言えば、関心をもち続けることが愛情になる。僕は人とのコミュニケーションはこれしかないと思うんです。子供が何を考え、何をしようとしているか、親や教師は関心をもたなければならない。その結果、子供のいい面が見え、愛情が生まれるはずなんです。

西野 確かに。最近は親も社会も子供に無関心な人が多いですね。

小林 僕はね、手前味噌のようですけど、総合商社は今後ますます発展すると思っています。なぜなら、日本にとって最も重要なのは食料とエネルギーの安全保障ですが、これは完全に総合商社がイニシアティブを握っている。もう1つ、ITをはじめバイオ、ヘルスケア、環境など社会の変化が速くなればなるほど総合商社は生きやすいんです。なのに、無関心でいてどうするんですか。物事に関心をもち続けてこそ、時代の一歩先が見えて来る。企業経営にとっても「無関心」は罪悪です。

西野 小林さんならではのご指摘です。本日は興味深いお話、ありがとうございました。

対談を終えて

 ITは縦割り社会を乗り越えていく――今回の対談で改めてそれを痛感させられた。小林さんが「ネットの森」を立ち上げた時、商社の予算配分の延長と思っていたが、違った。現実には部門間のを克服し、ベンチャー投資を模索する修羅場の物語があったのだ。

 その成功例であり、今や有力なモバイル・ポータルサイトとなったエキサイトにしても、一時は業績不振の米本社が連邦破産法のチャプター11(更生手続き)から同7(破産手続き)へ変更される危機に見舞われた。その際、小林さんは決断を迫られ、「悩んだ末、米国のサーバを日本に移してアジアの事業権を買い取った」ことが今日の成功につながった。

 連結ベースでの経営データ共有を始めとしたグループ全体のITインフラ構築とガバナンス強化のため、情報化投資を加速するというのも小林さんらしい発想であり、食料・エネルギー部門の出身者からは出て来ないモデルを大いに期待する。しかし、“冬の時代”を超えたとはいえ、総合商社はリスクの塊。100年以上続いた古いビジネスモデルから脱皮しても、今後は5年、10年周期で事業再構築を迫られるだろう。

 その戦略眼が、小林社長に求められているのではないだろうか。


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