消極的に足を引っ張る経営陣
ITに対して一切の関心を示さないトップ・経営陣も、実は少なくない。「ITはよく分からないので任せる」が口癖だ。任せてもらうのは有り難いが、いざと言うときにさっぱり役に立たないから、消極的に足を引っ張っていることになる。「無関心型」である。
一方IT投資に積極的だが、実はITをよく理解していないために投資の仕方を誤り、やがてアンチITに転向するトップ・経営陣もいる。
年商10億円ほどの情報システム工事業者のB社長は、仲間から評判を聞いてグループウェアを導入した。社内にメールが行き交うようになって、Bは「ついにわが社も先進企業になった」とご満悦だった。しかし、社内の帳票も会議も残業も減らなかった。それもそのはず、グループウェア導入方針も目的も不明確で、旧業務のまま導入したのだから、効果が出るはずがない。
この場合、BはITを理解しているとは言えない。Bは、やがて「ITは役に立たない」と言い出した。このタイプは「体裁型」と呼ぶのがいいだろう。
IT担当者の対応の仕方を考える
いずれの場合も、悲しいかなITについて無知であるがために理解できないのだ。
では、トップ・経営陣はどうするべきか。少なくとも自己変革の意欲は必要だろう。
絶望的に見える「嫌悪型」「建前型」は、あえてITを理解し導入する必要はない。ITは企業の生産性と経営の質を向上させる一手段に過ぎないから、IT以外の手段で目的を達する自信があれば、それで良い。ただし限界を感じたら、素直にITを理解する努力をすべきだ。
「無関心型」は、無関心を装っているのだとすれば、経営者たる者、装うべきではない。装い通せると思う経営者、または本音で無関心を決め込む経営者は、経営者の資格はない。即刻退陣すべきだ。最後に「体裁型」はせっかくIT投資を思い立ったのだから、もう一歩踏み込んでITを理解する気持ちを持つべきだ。前3タイプとは、本質的に違うのだから。
次に、情報システム部門はじめ、周辺の者たちはどう対応すべきか。
「嫌悪型」は権威に弱く、「いいカッコウしたがり」屋だ。確信犯的「建前型」も含めて、彼らの上位者、すなわち上司・顧客・役所などを動かすのが良い。筆者はコンサルティングを依頼された会社の頑固なトップを、顧客にお願いして動かすことに成功した。
また、相手の土俵に上がる方法も有効だ。原価低減なり優良顧客拡大なり、彼らが固執するテーマから入るのだ。
「無関心型」は無色で、「建前型」は導入する気があるだけ、取り組みやすい。情報システム部門はじめ関係者は、進退を賭けるくらいの意気込みで彼らの説得に臨むべきである。
ただ、いずれの場合も一過性では意味がない。ITに対する関心や理解を継続させなければならない。そのため、苦労をしてきっかけをつかんだら、続けて洗脳して行くべきである。
ますおか・なおじろう
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)
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