【第6回】世にもおかしな日本のIT組織(6)〜「建前」と「本音」、日本企業の複雑怪奇なフロー:三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(2/3 ページ)
私はこれまで幾度となく、紙の回付をなくそうとワークフローシステムを構築した。しかし、残念なことに定着させることができなかった。日本企業に適したワークフローシステムはまだすぐには実現できそうにない。
一方、ワークフローシステムはというと、自分からログインして見にいかないと、決裁書データが回付されてきていることが分からないのである。忙しい部長がいつもワークフローで、回付があるかどうかなど、もちろん見にいこうとはなしない。
自分の仕事の生産性を上げようと思えば、業務を集中させてから一気にまとめ処理しようと考える。いわゆるバッチ処理というやつだ。それが一番自分が集中できて、効率がいい。そうなると、朝と夜にまとめて処理しよう、と考え始める。これが部長にとって、この時間が一番落ち着いて決裁作業をできる時間帯だからだ。
もちろん出張や外出をしてしまえば、確実にフロー回付は停滞する。部下も上司のところでフローが止まっているなどとは、決裁書の受付箱とは違ってなかなか気づかない。目に見えないということが、日本人の仕事の習慣上、決裁書を止めてしまう大きな原因になっているようだ。
2.経路が動的に変わる
企業では職務規定で職務権限が厳密に決められている。だから、決裁者は、決裁案件、決裁できる金額も明確だ。それにもかかわらず、どうしてスピーディーにフローが回せないのか、不思議だった。
しかし、決裁が終わった決裁書を見ると、びっくりするほど沢山の判子が押してある。決裁権限を持っている権限者に到達するまでに、一段ずつ階段を上るように「部長→事業部長→経理部長→購買部長→本部長室長→本部長→常務→専務→副社長→社長」と回付されている。
さらによく見ると、わけの分からない小さい判子が確認印の周りにやたらと押してある。これは何なんだろうと思うぐらい判子だらけである。しかし、なぜか決裁者はたくさんの印鑑が押してある方が安心できるのである。
私の知っているエリート幹部は「根回しなくして決裁なんてあり得ない。決裁書は形である」と言い切っている。まずは企画提案内容を社長に説明し、事前にネゴしておくのが当り前で、あとは案件に応じて根回しておかなければならない人に合意してもらうための経路を考える。
日本企業の決裁書は、単純に決裁を得るだけのもではなく、運命共同体を形成する目的もあるのだ。
また、この稟議の順番は非常に重要である。めくら判という言い方をすると失礼かもしれないが、確認印、承認印を押す基準は、自分が信頼できる部下、関係者が判子を押しているかしか確認しない。決裁の内容がすべて分かる人なんてそうそういない。判断基準は、誰を信用して自分は判子をつくかだけである。
「山田部長と川村部長が判子をついていれば、大丈夫だろう」というのが、確認、決裁判断の基準なのだ。警戒心、リスク管理の強い幹部ほど、この保障印が事前にたくさん必要になる。面白い現象だが、硬い企業ほどこの傾向は強いようだ。
これが動的な経路の正体である。はっきり言えば、案件ごとに個別に経路を設定しないと決裁者の満足のいく「判子の山」にはならないわけだ。
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