日産の情報システム革新「BEST戦略」 キーワードは「標準化」(2/2 ページ)
1999年の経営危機から奇跡的な回復を遂げた日産自動車。それでも同社は改革の手綱をゆるめることはない。2006年からは情報システム部門を世界レベルにまで引き上げることを目指した「BEST戦略」に着手。その核となる施策は、情報システムの標準化だ。
標準モジュールの世界展開を可能に
佐野氏によると、日本、欧州、北米のITシステムのレビュー結果から、各地域固有のビジネスプロセスが必用とされるアプリケーションは全体の約2〜3割に留まることが判明したという。言い換えれば7〜8割は、いずれかの地域に類似するものが存在したことになる。にもかかわらず、いちからそれらを構築していたことで、開発コストがかさむ事態を招いていたわけだ。
そこで同社は、アプリケーション開発の無駄を省き、開発効率の向上とコスト削減に向けビジネスプロセスのモデリングに着目。現在、ビジネスプロセスの標準化とビジネスプロセス間でやりとりされるデータおよびグローバル共通のアーキテクチャの定義が進めている最中だ。これにより、残る7〜8割のシステムのモジュール化や、標準フレームワークを世界展開できる環境を整えることを狙う。
今ではBPMは、システム開発の上流工程に標準プロセスとして組み込まれており、日産自動車がシステムを開発するうえで欠かせないものとなっている。BPMの表記法には、業界で広く利用されているBPMNが採用されている。
佐野氏によると、BPMを基にしたシステム開発は次の2つの手法に大別されるという。
「作業効率を高めるためには、販売やマーケティングなど、ビジネス活動の変化の激しい領域では再利用性の高いプロセスを見極め、サービス化し前者展開するというトップダウンの手法が有効。一方、変化の乏しい生産やSCMの領域では、レガシーシステム内の既存のビジネスプロセスをモジュール化するといったボトムアップの手法が適している」(佐野氏)
アプリケーションの必要性を見直し15%削減を可能に
同社ではBPMを進めると同時に、業務における各アプリケーションの必要性や満足度、さらにユーザー数に対する運用コストの観点からアプリケーションの取捨選択も進めている。2007年度にはアプリケーション数で前年度比15%の削減を達成したほどだ。
一方で、BEST戦略の「S」と「T」に対しても余念がない。まず前者では、単一サプライヤーから複数サプライヤーにシステムの調達先を変更。契約方法も過去主流であった10年程度の長期から中/短期に見直しを図った。
また後者では、サーバのコンソリデーションやマイグレーションを通じ、アプリケーション間で共用できるインフラのサービス化や名フレームの統合など、「サーバ/ストレージ」「メインフレーム」「エンドユーザーコンピューティング」「ネットワーク」の4領域でコスト削減の可能性を探り続けている。
人材を戦略的に育成し、BPMをさらに推進
日産自動車では2000年頃から経理や購買業務を中心に、SAPの導入を進め、今ではアプリケーション数は18にも上る。利用者数は関係会社を含めて1万6000人にも達するほどだ。
「ただし、それらは過去、地域や業務領域ごとに個別に導入された。業務横断的に見た場合、一元管理をベースとするERP本来の利用方法ができていないのが実情だ。その結果、運用コストが増大するという弊害を招いている」(佐野氏)
BEST戦略を推し進め、標準システムを世界に展開することで、グローバルで最適なプロセス、データ、システムの共有が可能になる。ひいてはシステムの統合も促進され、業務のシェアードサービス化も進むことで、運用コストや各種の間接費のさらなる削減を見込むこともできる。
日産自動車はその目標をいち早く達成するために、今後、人材の育成にも注力する計画。具体的には、標準化すべきビジネスプロセスを特定し、改革を遂行するためにビジネスアナリストを、開発したアプリケーションの再利用性を高めるために、開発者との協業が求められるアプリケーションアナリストの双方を戦略的に拡充させたい考えだ。
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