最初はウソツキ大会でも当たり前――現場社員をBI名人に:BI活用インタビュー(2/2 ページ)
基幹システムに蓄積されたデータを活用するためにBIツールを導入したものの、業績向上にうまくつながらない。そんな悩みを持つ企業は少なくないだろう。武蔵野 代表取締役社長の小山昇氏は、「効果が出ないのは、現場でBIを使っていないから」と断言する。
現場社員をBI名人へと変貌させる仕組みとは?
ITmedia 現場がデータを分析してアクションにつなげれば、現場力は格段に高まりそうです。ただ、ITのスキルが高くない現場の社員にBIを浸透させるには難しいという声も聞きます。御社では、どのように対策されていますか。
小山 社員は基本的に従来のやり方を変えることを嫌がるため、「使いなさい」と上から号令をかけるだけでは定着しません。そこで弊社では、毎月2回、1回3人ずつ、私の前で分析結果をプレゼンテーションさせています。最初は各部門の責任者から。そのレベルに定着したら、次は課長クラスに浸透させていきます。
ITmedia それですんなりと定着するものでしょうか。
小山 もちろんいきなり使いこなすのは無理で、最初はウソツキ大会ですよ。分析方法はよく分からなくても、発表しないわけにはいかないから、社員はとりあえずごまかしの分析結果を発表する。最初はそれでもいいんです。少なくともごまかせるレベルまではツールに習熟するのですから。
ポイントは、発表者は時期を開けて何回もループでプレゼンする仕組みになっていること。2回目以降は、最初に自分が発表した分析結果が、その後どうなったのかを発表しなければいけないため、もうごまかしが利かない。嫌でも本腰を入れてやらざるを得なくなります。
ITmedia 一般社員には、どのように定着させているのですか?
小山 一般社員に教えるのは各部門長や課長クラスの役目ですが、これもただ「教えなさい」というだけでは教えない。そこで、一般社員向けには半年に1回、大規模なプレゼンテーション大会をやります。各部門から数人を選んで参加させますが、自分の部下がきちんと発表できないと、教えなかった上司が恥をかくので、仕方なく教えるようになります。
審査員は現場社員自身です。「どんなDMの反応がいいのか」、「商品を切り替えたら粗利益はどう推移するか」、など、現場のアクションに直接関わる分析を表彰することが目的なので、聞く方も真剣。良い分析があれば、さっそく現場社員が真似をして自分のものにしています。
データ分析から先はITを離れたアナログの世界
ITmedia BI導入で、企業が注意すべき点はありますか。
小山 重要なのは会計の仕組みです。会計には、財務データを外部にディスクローズするための財務会計と、会計データを内部の意思決定に活用するための管理会計の二種類があります。財務会計のみを採用している企業では、例えば売上データを分析しようにも、その中身が不透明。管理会計なら売上も単価×販売数で管理しているため、分析も容易です。弊社は約10年前に財務会計システムから管理会計システムに移行しました。基幹システムの刷新は骨の折れる作業でしたが、データから次の戦略を導き出すためには、避けて通れない課題だと思います。
ITmedia その他、データ活用を成功に導くコツがあれば教えてください。
小山 すべてをITでやろうとすると失敗します。何でもIT化するのはコストがかかるし、ユーザーである社員にとっても一気にハードルが高くなる。他のIT導入にもいえることですが、アナログのほうが有利な部分は、無理にデジタルにしないほうがいいでしょう。
ITmedia その見極めが難しいですね。
小山 簡単にいうと、インプットはデジタルで、アウトプットはアナログが基本です。例えば住所録はデジタルに入力して管理したほうが便利ですが、礼状や案内状という形でアウトプットするときは、手書きの手紙やハガキのほうが相手の心に響きます。これをeメールで送ると、自分が便利になるだけで、相手は喜んでくれません。これは他のITでも同じ。インプットにITを使うと便利ですが、アウトプットして成果につなげたいときはITに頼らないほうがいい。
ITmedia データ活用の分野でいえば、どういうことになりますか。
小山 データを集めて分析するところまではITの助けがあると便利です。しかし、その結果をもとに具体的なアクションを変えるのは、もうアナログの世界。その違いが分かっていない企業は、BIで分析しただけで何かを変えた気分になり、結局はアクションを起こさずに終わってしまう。データ活用はアクションが伴ってはじめて意味があることを忘れないでください。
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