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現場力とは、地道な努力の積み重ねで身に付くものITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

 個人や組織の能力というのは、1日で変わるものではない。地道な努力を積み重ねてこそ変わっていくものだ――早稲田大学大学院教授でローランド・ベルガー会長の遠藤功氏は、「第4回エグゼクティブセミナー」で、「『見える化』による組織の“くせ”づくり」と題した基調講演を行った。

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「見える化」は戦略に沿った“くせ”づくりのためにこそ

 現場力を考える上で、「見える化」は、良い“くせ”をつけるために重要な取り組みだと遠藤氏は紹介する。しかし一方で、「見える化」が目的化し、一人歩きしているようなケースもあることを危惧する。

 「トヨタの中でもカイゼンの神様と呼ばれる林南八技監は、『見える化をして何にもしないなら、見えないほうが幸せだ』とまで言っている。見えるだけでは何も変わらない。見えたら、それをカイゼンするのだという考えだ。見える化というのは、人間にとっての体温計や体重計、血液検査などと同じようなもので、それがあるからこそ日常的な努力や節制を続けられるという性質のものだ。組織も個人と同じ。見える化すると行動が変わってくる、というところに持って行く必要がある」(遠藤氏)

 アイデアを現場力として維持向上させようと取り組んでいる小林製薬では、例えば社員から寄せられたアイデアの数や、それを元に作られた新商品を初年度新商品比率として見える化している。X社は納期順守率、納期短縮率などとした。

 「その指標は、組織として身に付けるべき“くせ”によって違ってくる。品質や安全、サービスなどを“くせ”として身に付けようとするなら、それに応じた指標がある。そして、“くせ”は欲張ってはいけない。あれもこれも求めていても、実現できるものではないからだ。戦略的に、組織が求める“くせ”を明確にし、徹底させていかねばならない」と遠藤氏は言う。

 見える化した指標が、組織の戦略に沿ったものであれば、戦略からのズレにも気付きやすい。例えば小林製薬では、アイデアが一時的に落ち込んだ時期があった。しかし、その落ち込みはアイデア数や初年度新商品化率として明確に表れたため、すぐに手を打つことができたのである。

 「気付かなければ、ひょっとしたら取り返しのつかない事態に陥っていたかもしれない。しかし問題の発生に早く気付けば、早く回復できる。そして損失も小さく抑えられるというわけだ」(遠藤氏)

情報共有から共通認識へ導くにも、対話し続けるという努力が必要

 「見える化」について、遠藤氏はさらに注意点を説明する。

 「見える化とは、共通認識を作ること。あるソフト会社では、現場が見たいと思う情報を現場自身で作り、毎日更新して壁に掲示していた。それも、残業して作るほどの熱心さだった。しかし、情報量が多すぎて逆に何も見えず、しかも作っただけで力尽きてしまい、課題解決に取り組めない状態にあった。例えば交通信号のように単純な情報でなければ、共通認識を得ることが難しいのだ。もし仮に信号機が3色でなく、20色くらいあったら、みんな迷ってしまうだろう。『紫は何の意味だっけ?』『茶色は何だっけ?』という具合に」

 信号の色の意味は、全員が常識として共有してこそ、誰でも一目で分かるという共通認識に至るのである。もっと複雑な情報を共通認識にまで至らせるには、対話が欠かせないという。

 「翻訳して理解するための場が必要だ。対話してこそ、情報共有から共通認識を作り出せる。そこには、マジックなどない。対話あるのみ。対話の密度を増やして、共通認識に近づけていく努力が必要だ。なお、見える化のためにITが必要だと言われるのは、ITというのは、悪い“くせ”から脱却し、良い“くせ”をつけるために効果的な道具だから。ITを上手に使いつつ、時間をかけて、じっくりとやることが肝要だ」(遠藤氏)

 現場力を鍛えていくには、組織がつけるべき“くせ”を明確にし、その上で適切な指標を「見える化」し、かつ対話を続けて共通認識に近づけていかねばならないということになる。

 「戦略や計画は1日もあれば変えることができる。しかし、組織能力や個人の能力を1日で変えることはできない。1日1日の地道な努力を積み上げていくことこそが、能力向上の唯一の道である」(遠藤氏)

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