日本版SOX法(J-SOX法)に対する企業の課題や取り組みなどを議論、検討する研究会「After J-SOX研究会」は5月20日、プレス向けに説明会を開催した。座長を務める立命館大学大学院の田尾啓一教授は、J-SOX法による最終目標を「企業価値、すなわち株価や時価総額の向上」とし、そのためには「攻め」(キャッシュの創出能力)と「守り」(内部統制の成熟度)のバランスが取れたステップアップが望ましいと語った。
同研究会は2007年11月に発足し、現在は36社106名が参加する。「新たな経営改革活動の潮流創造」をテーマに、J-SOX法対応を連結経営およびERM(エンタープライズリスクマネジメント)の起点にして、経営の見える化やガバナンスの向上、IT力の向上を促進させることを目的とする。当初は約半年間の活動予定だったが、J-SOX法施行を直前に控えた現場の混乱などを受け、活動を2009年3月まで延長した。終了後は参加メンバーが個々に活動を続けるという。
バランス良く段階的に
「経営者の使命は企業価値の向上であり、J-SOX法はそのための基盤として活用すべきだ」――田尾氏はこう指摘する。一般に企業価値とは将来のキャッシュフローに対する現在価値だが、たとえ現在のキャッシュ創出能力を高めても経営基盤となる内部統制がぜい弱であれば持続可能性は低い。この持続可能性を担保するものが内部統制であり、その発展型のERMである。一方、内部統制だけを強化しても企業価値は高まるどころか、管理業務に負荷がかかり過ぎて価値が低下するかもしれない。
「企業価値を最大化するには、両者のバランスを考え段階的に進めていくのが重要」と田尾氏は繰り返し強調した。
J-SOX法対応への進捗状況や将来の見通しを示す指標として、同研究会が提案するのが「内部統制成熟度モデル」である(下図参照)。内部統制と連結経営のレベルを5段階に分けて、それぞれの達成目標を設定している。国内企業の多くは現在レベル2に位置しており、「(企業規模などによるが)3〜5年でレベル5に到達できるよう進めてもらいたい」(田尾氏)としている。
将来は同研究会に参加する企業を中心に成熟化モデルを具現化し、共通のソリューションとして提供していきたい考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 結局は「心証」が決め手?――内部統制評価
間もなく適用が始まるJ-SOX法。本番年度は、ITによる運用状況の評価の効率化がポイントになるという。 - 内部統制で競争力は向上するのか?
内部統制は、法律に従って実施するだけのものではない。企業戦略の土台としてルールを整備し、さらなる市場展開を目指すための戦略的な基盤と考えるべきだ。牧野二郎弁護士はこう主張する。 - 「賢い」リスク管理でJ-SOXを乗り切れ
2009年に施行予定のJ-SOX法に向けて、日本企業はいよいよその対応に迫られている。既にリスク管理で先行するアメリカでは、次の段階となる「リスク・インテリジェンス」の取り組みに入っている。 - J-SOX対応が京都議定書にも影響? IDCがコンプライアンス市場動向を発表
IDCは、今後数年間の日本のコンプライアンス市場における予測を発表した。 - 60%の企業がJ-SOX法の文書化作業を完了 コンサル大手が調査
ベリングポイントは、日本企業の経理・財務部門における成熟度を調査した。J-SOX法への対応は順調に進む一方で、会計基準の変更に伴う対応は遅れを見せている。