携帯電話市場の曲がり角――「官製不況」だけで片付けられない落ち込み:新世紀情報社会の春秋(2/2 ページ)
日本の携帯電話市場は大きな曲がり角を迎えている。販売制度の変更が大きな要因とされているが、そこをさらに掘り下げてみると、携帯電話市場が差し掛かっている大きな「潮目」がおぼろげながら見えてくる。
本質に立ち返る携帯電話の機能
これまでより新しい機能に向かって進み続けてきた携帯電話へのニーズは、機能からデザインなど感覚的なニーズにシフトが始まっているが、今後しばらくは基本的な機能を中心としたシンプルなものに対するニーズがより明確になり、高機能を求めるニーズよりも大きな流れを形成することになるだろう。
ここで言う基本機能とは、通話、メール、ウェブの3つだ。メールとウェブは統合され、アドレスブックなどのパーソナル情報の管理機能や、ニュース、天気、地図、ゲーム、金融といった生活情報の機能とともに、テキストベースのコミュニケーションの基本要素となる。音声とテキストによるコミュニケーションという本来の位置に落ち着くことで、携帯電話は本当の必需品として最後の普及段階を迎えることになるだろう。
カメラ、ワンセグ、音楽、決済などの機能は、他の専用機との競合のなかで携帯電話機能として一定の支持を持ち続けるだろうが、当面はオールインワンよりも基本機能を中心としたオプション化の流れが強まることになると考える。そしてそのトレンドを底流から支えるのが「低価格化」の流れだ。
「求めやすい価格」と「長く使える」がキーワードに
販売制度の変更は、結果的には日本の携帯電話端末の世界に本格的な価格競争をもたらすことになる。それは「これだけの機能が入って2万円を切るお値段」とか、「シンプル機能で9800円」といった展開になるのだろう。同時に、現在の業界で嘆かれる「買換えサイクルの長期化」は、「長く使える携帯電話」というそれを逆手にとったトレンドとして現れてくるに違いない。
この「長く使える」というのは、耐久性や飽きのこないデザインという観点だけでなく、技術的に陳腐化しないというのがエレクトロニクス製品の大きな宿命である。前回まで何度かとりあげた「iPhone」の出現が、携帯電話にコンピュータの要素を大きく持ち込んだ新たな世界を目指そうとしていることは、その方向性と相容れるのかという意味で非常に気になるところである。
しかし、ウェブコンピューティング時代の端末要件ということを考えるに、この問題には既に一定の落着を見ていると考えられそうである。もはや端末に求められる処理能力が短期間に飛躍的に増大するという状況ではない。ムーアの法則はまだ当面は健在なのだそうだが、それが必ずしもすべてのレイヤで必要ではなくなりつつあるということは、忘れてはならないだろう。
長く使えることの目安は、従来の2、3年が4、5年といったあたりになると個人的には考えている。携帯電話は据え置き型のものではないから、破損や紛失といった予期せぬ寿命が付きまとう。それでも「今まで使っていたのと同じものが欲しい」と思われるというのは、ベンダーとしても大きな強みになると思うのだが、いかがなものだろうか。
こうしてまとめると当たり前の流れのようにも思えるのだが、より大きな市場を含めた全体の方向性を考える上で、携帯電話の端末というものについて少し考えをまとめてみたかったので、今回はそれを書いてみた。
今後、国内の業界構造も大きく変わっていくことになるだろうが、その姿は弱い国内ベンダーが淘汰され海外メーカーが躍進するというような、単純な形にはならないと考えられる。サムスンなどは今後もそれなりに存在を高めてくると思われるが、ノキアが「低価格」を切り口に日本でもシェアを拡大するかといわれれば、そこはどうも玉虫色に見えてしまう。出だし好調なiPhoneを掲げるアップルは、それなりに長期戦の構えを示しているものの、その方向性はもっと大きな構造変化を織り込んでいる。
この曲がり角は意外に大きく長いカーブなのかもしれない。
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