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【第5回】トップに引導をわたしてきた歴史ミドルが経営を変える(2/2 ページ)

「名ばかり管理職」というフレーズが象徴するように、弱い立場にあるミドルは少なくない。しかし、時には経営者の暴挙に立ち向かい、会社を大きく変革させる行動に打って出る力強さを持っている。実際起きた事例を基に振り返る。

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ミドルによる「経営者おろし」

 労働組合だけではない。そこには属さない部課長クラスが、経営者の経営姿勢にモノ申し引導をわたした事例も少なくない。日本経済、特に金融界が揺れた1997年を思い出していただきたい。野村証券で、元総会屋の親族企業への利益供与事件に端を発した不祥事が発覚した。この事件では、社長を含め3名の取締役が逮捕された。不祥事発覚後、経営陣の責任を明確化する声が社内に高まった。報道によれば有力な部長を中心とする「裏の取締役会」が代表取締役全員の退陣を要求したとのことである。この要求は受け入れられ、当時の代表取締役すべてが退任することとなった。

 この不祥事は、第一勧業銀行(当時)にも飛び火することとなる。利益供与を受けていた元総会屋に対して、同行も巨額の融資と利益供与を実施していたことが公となった。その結果、同行から多数の逮捕者を出してしまう。不祥事を受けて経営陣の入れ替えが進められたが、この入れ替えに際しては部次長クラスの声が大きな影響を及ぼしたという。彼らの声がいったん決定された人事を覆したのである。

 大手玩具メーカーのバンダイでも、セガ・エンタープライゼスとの合併計画に端を発する出来事があった。当該の計画が経営者の独断で進められたこと、また、そもそも経営者の手腕への不満が社内に充満していたことなどから、部次長クラス、課長クラスから合併撤回の嘆願書が提出される状況となり、合併計画は撤回され、その責任を取って社長は会長に「棚上げ」されてしまった。

 最近であれば、精密機器大手・セイコーインスツルにおいて、創業家出身で大株主でもあった社長の解任劇の事例もあった。この解任劇でも、ミドルの声が大きな役割を果たしたとされている。2006年、同社の臨時取締役会の場において社長解任の緊急動議が提出され、社長の解任が行われた。社外取締役を含めて取締役の解任を後押ししたのは、同社の部長級幹部50人の手による社長解任を求める「嘆願書」の存在であったとされている。

 こうして見ると、ミドルを含む従業員が持つパワーの大きさを改めて知ることができるだろう。しかし、こうした形でモノ申すことには大きな問題点がある。それは「遅れ」である。

 ミドル主導による解任の事例を眺めていくときに、必ず気が付く事がある。それは、明らかに業績不振が続いている、業界内で不祥事のうわさが絶えないなど会社が一種の「末期的状態」となっていることが多いという事実である。「もう少し早く、手を打っていれば」との思いを持たざるを得ない事例が大半である。

 では、「いまさら」とならないためにはどうすればいいのか。日本の現行の法制度は、ミドルらが(とりわけ解任に向けて)トップにモノ申すことを保証はしていない。強制力を与えていないのである。しかし、いくつかの仕組みが提案されている。次回は、ミドルらによるモノ申す行動を、より実効力のあるものにするための仕組みについて見ていくこととしよう。


プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。


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