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【第6回】トップの任免に関与するための実験ミドルが経営を変える(2/2 ページ)

無能な経営トップに社員が引導をわたす。日本でも危機意識の強い企業ではこうした事例がいくつもみられた。昨今は、会社経営のあるべき姿を目指し社員らがトップを正当な手段で罷免できるような仕組みづくりも検討されているという。

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理想か現実か

 投票に向けての具体的な手順を見ていこう。第1段階として、経営者(会長そして社長)の候補者について、「経営者監査委員会」がそれぞれ単一の人物を指名する。この経営者監視委員会は、外部経営者、学識経験者、株主代表、当該企業の経営者OB、そしてそのほかの望ましと思われる外部者から構成されるものである。なお、経営者が代表取締役を兼務することが一般的であるため、指名は取締役の任期終了時に行うものとされる(また委員会が経営者監査を現任の経営者に行った結果、任に堪えずとの判断に至った場合には、罷免の提案もこの委員会の仕事とされる)。

 第2段階として、コア従業員が経営者監査委員会の指名した候補者に対して無記名の信任投票を実施し、その結果を取締役会に報告する。取締役会はこの投票結果を参考にして、株主総会に諮る経営者候補の案を作成する。

 最後の第3段階として、取締役会は信任投票の結果を株主総会に報告して、経営者候補を含む新規の取締役会メンバーの原案の承認を総会に求める。

 なお、コア従業員による信任投票の結果は、経営者監査委員会の候補者決定に法的な拘束力は持たせない。また、株主総会での承認においても、何らの拘束力も持たせないものとされている。あくまでも情報として、投票に影響があることが期待されているのである(拘束力を持たせてしまうと、現行の法の原理と抵触、株主の権利を侵害してしまう)。

 周りの現役ビジネスマンの方に、こうした試案の実効性について質問を投げ掛けてみると、「面白そう。節目でこういった投票があるなると、経営者には相当のプレッシャーになると思う」といった肯定的な意見が少なくなかった。「投票に際しては信任・不信任だけではなく、理由も書き添えることにする。日ごろ考えていることを真剣に書く人が多いと思う」との意見もあった。

 一方で、「自分の派閥の親分なり、事業部出身者が候補者になれば信任する。そうでなければ不信任。そんな単純な結果になるのでは」との否定的な意見もあった。自らを重用してくれそうな人物であれば「イエス」、そうでなければ「ノー」とのことである。

 こうした「派閥云々」の話が出てきたときに、あるビジネスマンの口から出たのが、冒頭の発言であった。それに続けて、「役員一歩手前の人であれば、自分を引き上げてくれる人かどうかが信任、不信任を左右するでしょう。しかし、そうした位置にいない限り冷静に判断すると思います」とも口にしていた。

 「派閥云々」については、容易に想像できる問題点として研究者の間からも指摘されてきている*3。しかしながら、問題点が見込まれるだけで、新たな仕組み作りが頓挫していては進歩は望めない。

 筆者は、「そんなにばかじゃない」との発言を信じたい。そして、ミドルの声を企業統治、そして企業経営に生かしていくための新たな仕組み作りへの「実験」を繰り返し、その実験を通じて問題点があぶり出され、克服されるためのさらなる実験が行われる。こうした取り組みが日本の産業界には必要ではなかろうか。このように筆者は思うのだが、読者の皆さんはどうであろうか。


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プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。


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