速読のための筋肉を鍛える――「フォーカス・リーディング」:経営のヒントになる1冊
仕事が忙しくて時間がない、それでも本をたくさん読みたい。そんなビジネスマンが習得しておきたいスキルが「速読」だ。本を速く読むためには体を使ったトレーニングが必要だという。
「本の読み方」に関する本が、ちょっとしたブームになっている。書店の店頭には「読書術」「速読術」などの本が並び、ベストセラーランキングにもしばしば登場している。その中でも話題になっているのが、本書『フォーカス・リーディング』だ。
著者は速読教室の人気講師。本書はそのノウハウを講義形式で説明し、「1冊10分」で本が読めるようになることを目的としている。こういった読書術が人々に求められる背景には、「多くの本を読んで知識を身に付けないと、時代に取り残される」という強迫観念に似た感情を多くのビジネスマンが持っていることがあるように思う。
ところが、本書を読み始めるといきなり出鼻をくじかれることになる。「本をたくさん読めば読むほど、むしろ成長が阻害される」というのだ。著者いわく、「目的のない多読は、考える力を奪い去る」。つまり、自分で考えずに人の考えを受け売りするだけの人間になってしまう恐れがあるというのだ。
では、どうすればいいのか?
その本から何を得たいのかという目的にしっかりフォーカスし、目的に合わせて本の読み方やスピードを調整する必要があるという。単に情報収集のための本ならスピーディに拾い読みをすればいいし、将来にわたり役立つ内容であれば自分の血肉となるまで何度も読み返せばいい。それぞれの目的に合った速読のテクニックを修得し、読書の効果を高める。それが著者の主張するフォーカス・リーディングである。
読書に対する考え方だけでなく、本を読むときの姿勢や意識、視点の移動方法といった実践的なテクニックも余すところなく紹介されている。例えば、人は集中すると視野が狭くなる傾向があるという。そのため頑張って「読むぞ!」と力んでしまうと、かえって読書スピードも理解度も下がってしまうそうだ。力みを取り、適度にリラックスして本を読むためのコツも知ることができる。
中でも本書の白眉ともいえるのが、目の動かし方を鍛えるトレーニングだ。本の上をスムーズに視点を移動させ、大事な箇所にはフォーカスし、そうでない箇所は速度を上げて読み飛ばすという読み方は(本書ではこれを「ギアチェンジ」と呼んでいる)、従来の本の読み方を変えるインパクトがある。
軽い気持ちでテクニックをつまみ食いするだけでも、あるいはフォーカス・リーディングという概念を知るだけでも、十分役に立ちそうな一冊だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ビジネス書ランキング BEST10――丸善本店 08年8月
ビジネス書籍の売れ筋ランキングベスト10。丸善 丸の内本店調べ。 - 現代社会のあり方を問う――「暴走する資本主義」
70年代を境に世界で資本主義が強大になるにつれ、消費者としてのわれわれの声は大きくなった。一方で民主主義は崩壊しつつあり、もはや政治は民意を反映しなくなったという。 - 日本人の意欲減退に警鐘を鳴らす――「意欲格差」
精神科医の和田秀樹氏によると、格差社会の根底にあるのは「意欲」の違いだという。とりわけ日本人の意欲は海外諸国と比べて低く、このままでは日本が没落しかねないと懸念する。 - 能力や学歴ではなく価値観の共有に注目――「辞めない採用、即戦力の育成で儲かる会社になる!」
新卒の売り手市場といわれる採用環境の中、苦労して優秀な人材を採ったのにすぐに辞められてしまった、と嘆く企業も多いだろう。辞めない社員をつくるにはどうすればいいのだろうか。