3R(削減、再利用、リサイクル)のプラスとマイナス:環境経営の二重性(2/2 ページ)
産業分野における環境対応は、持続可能で成長性と矛盾しないものでなくてはならない。
付加価値を損なわないリプロダクションが必要
サンダーバード経営大学院のウンルー教授は、再資源化(Recycle)に関して、ダウンサイクルとアップサイクルという2つの概念を対比させて論じている。ダウンサイクルとは、資源をリサイクルするときに、素材の価値が損なわれる方向で再利用することである。例えばプラスチックケースを溶解して道路の材料にするというようなことだ。このリサイクルでは、次は、あるいはその次にはリサイクル不能なゴミになってしまう。この資源リサイクルは、継続性のないリサイクルである。
それに対して、素材の品質や機能を低下させることなく、何度もリサイクルするのがアップサイクルである。例えば鉄鋼製品は、溶解すれば鉄になり、それを加工して新たな鉄鋼製品を作ることができる。鉄が鉄にリサイクルされるのである。
一般的には、製品は使われ、やがて廃棄される。これがワンサイクルである。リユース(Reuse)は、このワンサイクルの時間をできるだけ延ばすことだ。一方、アップサイクルの再資源化では製品は、何度も新たな製品に生まれ変わるというサイクルになるのだ。つまり、リプロダクションが繰り返されるわけである。ここが、最も重要なポイントである。
リユースの場合は、企業活動としては経済システムの中で付加価値をほとんど生み出さない。しかし、リプロダクションの場合は、新たに製品を生産するので、経済システムの生産活動に貢献できるわけである。しかも、その過程で資源がまったく失われないなら、最初に使われた資源がずっと同じ価値を保ち続けることになる。さらに、その間に消費されるエネルギーを削減することができれば、環境にかける負荷も小さくなる。もちろん実際には資源の価値を100%保つことはできないが、その「逸失」を減らすことで資源の長期的浪費を防ぐことができる。
資源が付加価値の低い製品に変わっていくダウンサイクルでは、その製品は次あるいはその次には再資源化されないゴミになる。したがって、仮にアップサイクルのほうが使われる資源の量が多いとしても、時系列で考えると、ダウンサイクルよりもずっと環境にかける負荷は少なくなる。
原材料の量ではなく種類の節約が重要
だとするなら、アップサイクルを目指すような製品作りをすべきだし、そのためには原材料の量を節約するのではなく、原材料の種類を節約することも重要になる。なぜなら、アップサイクルのリプロダクションは、原材料の種類が少ない方が容易だからだ。さらに、原材料の種類が減れば、サプライチェーンがシンプルになり、コントロールし易くなるし、スケールメリットも出てくる。
このように考えると、いわゆるプラットフォーム型の製品に環境経済的意義があることが分かる。なぜなら、製品の部品や構造などで共通部分を増やせばアップサイクルが実現しやすくなるからだ。したがって、計画的陳腐化を追求して次々に新製品を出していくとしても、プラットフォームの部分が適正にアップサイクルでリプロダクションに使えるのであれば、コストも削減できるし、多様な製品を作ることも可能になるので、計画的陳腐化は決して悪いことではないということになるわけである。
ただし、そのためにはリプロダクションのプロセスの中に回収プロセスを組み込まないといけない。その回収プロセスをどう作るかが非常に重要である。例えばキヤノンは、複写機カートリッジの回収プロセス構築に力を入れている。これは、アップサイクルのための企業活動である。
いずれにしても、アップサイクルで次々に環境負荷の軽い新製品を開発していくというのは、現在の我々が持っている経済システムに整合性があることなのだ。この意味では、計画的陳腐化は必ずしも悪いことではないと言える。
(早稲田大学IT戦略研究所主催、エグゼクティブリーダーズフォーラム第22回インタラクティブ・ミーティング講演「地球温暖化が変える企業経営」より)
プロフィール
ねごろ・たつゆき 早稲田大学IT戦略研究所所長。ビジネススクール教授<経営戦略>モジュール責任者。 京都大学卒業(社会学専攻)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て現職。経営情報学会会長、Systems Research誌Editorial Board、国際CIO学会誌編集長,CRM協議会副理事長。主な著書に、『代替品の戦略』(東洋経済新報社)、『mixi と第二世代ネット革命』(編著,東洋経済新報社)、『デジタル時代の経営戦略』(共著,メディアセレクト社)など。
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