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【第13回】従業員主導の「三等重役」選び――安田生命および大成建設の事例ミドルが経営を変える(2/2 ページ)

戦後すぐに経営者に抜擢された人たちは「三等重役」とやゆされた。しかし中には、一等級の働きを見せた者も存在した。前回に続き、混乱期における企業の取り組みを紹介する。

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試行錯誤で選挙制度をつくり上げる

 選挙によって経営陣を選んだ同社だったが、これにかかわる興味深い事実を同社の社史は伝えている。それは、こうした選挙が持つ問題点を正直に伝えるものである。選挙の事務方を務めた人物の感想として、次のような記述が残されている。

 「選挙は、たしか入社5年以上が有権者であり、わたしも一票を投じた。投票場は後に社員食堂になった大倉別館地下室で、わが社にデモクラシーが誕生する場としては少しばかり陰気であった。幹部に属する社員の名簿が配られ、土(土木技術者を主体とする土木部門、筆者挿入)、建(建設技術者を中心とする建築部門)、事(事務部門)にそれぞれ連記数が記されてあったかと思う。当時のわたしは土、建の社員には大して面識もなく、また役員たるにふさわしい立派な方の人格に触れる機会にも恵まれなかったので、従っておおむね棄権し、事務社員の中では自分なりに『この人を』と思う人の何人かを記入したが、連記数には満たなかった。後でそれとなく聞いたところによると、おおむねの投票者は無理して連記数に達するまで記入したらしい様子であった。かかる選挙形式の結果として、いわゆる顔の売れた人に票が集まる傾向となるのもまた止むを得ない仕儀であった……」


 この指摘のように、国内外に数多くの拠点、事業部門を抱える同社では、候補者に関する情報が投票者に決定的に不足していたという問題点が浮き彫りになっていた。こうした問題点を克服するため、次回の選挙で制度の見直しを行っている。具体的には、最初に選挙人を選び、次に選挙人が役員候補者を選出するという2段階の方式が採用されることとなったのだ。

 今、筆者の目の前に2008年12月15日付の夕刊が並んでいる。「景況感下げ幅 過去2番目」(朝日新聞)、「景況感 記録的な下落」(毎日新聞)、「景況感 急激に悪化」(讀賣新聞)、そして「景況感 34年ぶり悪化幅」(日経新聞)――。将来のトップ候補を育成するためのプログラムを持つ会社は少なくない。戦後と比較することはできないが、現在も相当な混乱期である。一等級の仕事ができる新しい「三等重役」を、(指名委員会といった横文字発の制度ではなく)新たな形で選んでみるのはどうだろうか。問題があれば、随時手直ししていけばよいのだ。


プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。


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