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世界大不況を打ち破る鍵――「日本 米国 中国 団塊の世代」経営のヒントになる1冊

米国、中国と比べて恵まれた存在といえる日本の団塊の世代。著者の一人である堺屋太一氏は、現在直面している不況から日本経済を回復させるには、これまで積み重ねてきた彼らの経験が不可欠だと強調する。

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 なぜ、いまさら団塊の世代? そういう声も聞こえてきそうだ。実は世界の団塊の世代を読み解くことは、現在の状況を読み解くことにもつながるのだ。なぜなら戦後から現在まで、激動の真っただ中にいたのは、ほかならぬ彼らだからだ。

『日本 米国 中国 団塊の世代』 著者:堺屋太一、浅川港、ステファン・G・マーグル、葛慧芬、林暁光、定価:1680円(税込)、体裁:四六判 232ページ、発行:2009年3月、出版文化社
『日本 米国 中国 団塊の世代』 著者:堺屋太一、浅川港、ステファン・G・マーグル、葛慧芬、林暁光、定価:1680円(税込)、体裁:四六判 232ページ、発行:2009年3月、出版文化社

 米国の団塊はウッドストック世代だ。彼らは20歳になるまで、米国の強さ、正義と理想を疑わなかった。しかし1970年代に入ると、ベトナム戦争、金・ドル交換停止、石油ショックなどによって考えが揺らぎ始める。その後、米国は軍拡を進め、マネーゲームに走り、揚げ句の果てにサブプライムを破たんさせた。米国の団塊が頼みにしていた年金は崩壊し、貯蓄も目減りしてしまった。

 中国には1966〜68年の文化大革命のさなか、中・高を卒業した老三届(ラオサンジエ)という世代がいる。彼らは文革の実行部隊である紅衛兵となった。しかし、その存在が不要となると、農村へ下放された。彼らは利用され、捨てられたのだ。彼らが故郷に戻った80年前後に状況は一変し、学歴社会、高度経済成長に突入していた。中国発展の裏で、中国の団塊は歴史に翻弄(ほんろう)され、無学歴、低収入の不利を感受し、どん底を味わってきた。

 一方、日本の団塊はどうだろうか。米中に比べ恵まれていたと言える。物心がついたときには、戦後体制は出来上がっていた。経済成長の道をひた走り経済大国となった。日本の団塊はその恩恵を享受してきた。しかし日本は、バブル崩壊以降、経済不振に苦しみながらも、有効な改革ができないでいる。そんな中、いま新たな不況の波が襲ってきた。

 堺屋氏は「米国が今次の大不況を克服するには少なくとも3年はかかるだろう。中国は1年で立ち直る」という。日本は、円高と高齢化という重荷をチャンスに転化すれば、2010年には不況から回復する可能性が十分あると。この2つの重荷は日本企業にとってチャンスなのだ。

 円高は、輸入する部材や製品の価格低下をもたらす。80年代末に円高が進んだときに史上空前の利益を生み出したように、今回もそうなる可能性は十分にある。もう1つは高齢化。団塊の世代の存在だ。定年を迎えた彼らが待遇にこだわらずに、年金併用型で低賃金でも働こうとすれば、経験豊かな労働力が大量に発生する。これらをうまく活用すれば企業に大きな利益をもたらすと堺屋氏は指摘する。

 本書は堺屋氏の「団塊の世代論」の集大成であると同時に、この60余年の社会、政治、経済、ライフサイクルの歩みを映した大著でもある。この不況を行き抜くには、堺屋氏がいうように、変化に対応する知恵と想定外の出来事に動じない覚悟が必要なのかもしれない。


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