国際競争力の源泉を探る――「国際競争力の経営史」:経営のヒントになる1冊
なぜ国際競争力の違いは生まれるのか。世界規模での市場主義の台頭、グローバル競争の激化、加えて現在も進行を続ける金融危機に立ち向かう上で、これを知ることは重要であるに違いない。
国際競争力の違いはなぜ生まれるのか。国際競争力に差をもたらすメカニズムはいかなるものなのか。これは、世界的規模での市場主義の台頭やグローバル競争の激化といった1980年代以降の時代背景、さらには現在進行中の金融危機、経済危機の状況下で、最も重要なテーマであるに違いない。
現在、国際競争力に関しては、労働生産性やTFP(全要素生産性)にもとづく分析が中心に行われている。しかし、それをいくら進めても、各国における数値の違いが明らかにされるだけであり、その違いが生み出される理由は不明のままである。また、多くの議論では、国際競争力が、国、産業、企業という異なる3つのレベルで論じられているため混乱が生じている。
以上の状況を受け、この奥深いテーマに取り組むのが本書である。国際競争力の源泉は、経済学ではブラックボックスとして等閑視されてきたが、本書では経営史に基づくアプローチにより、その源泉の解明に挑戦する。
各章で、経営史・経済史の第一線で活躍する執筆陣が、さまざまな時代、さまざまな国・地域、さまざまな産業における企業活動を実証的に考察していく。取り上げられるのは、BASF、GMやフォード、P&Gといった代表的な多国籍企業と、それに対抗した日本企業である。各章の分析を通して、国際競争力の源泉には、生産、マーケティング、経営管理への多面的な投資を行う「三つ又投資」を戦略的に実践する企業の「組織能力」にあることが明らかにされる。
さらに、国際競争力はあくまで企業レベルで形成されるが、そういった企業が登場すると、その国の当該産業全体の国際競争力が高まることが多いことも指し示される。つまり、特定企業が組織能力を発揮して国際競争力が構築されると、その企業が活動する国(地域)の産業に競争プロセスを通じた相互学習(対話としての競争)が生じて、その産業全体の国際競争力が上昇する、というメカニズムが生まれるのである。ひいては、国レベルの競争力も高まることになる。
このように、本書では、経営史に即した事例分析によって、国際競争力の相違を生み出す力を明らかにしており、これからの経済社会を生き抜くための指針を示している。まさに、危機の時代の必読書である。
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