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【第22回】地下鉄の落書き消しがもたらす効果とはミドルが経営を変える(2/2 ページ)

見逃してもいい小さな綻びが、後に取り返しのつかない大惨事に発展することが多々ある。それを未然に防ぐためには何をすべきだろうか。ニューヨーク元市長に学ぶ。

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地下鉄の落書き消し

 チリひとつ落ちていない道路とポイ捨てゴミだらけの道路。ポイ捨てする人が多くなるのはどちらか。結論は明らかだろう。ポイ捨てがポイ捨てを生む。そうした悪循環を防ぐために、小さな綻びの段階で手を打っておく、それが地域の警察の重要な仕事であるとの指摘がなされている。これを実際に行ったのが、1994年にニューヨーク市長に選出されたルドルフ・ジュリアーニだった。彼はニューヨークを襲った無差別テロへの対応や大統領選挙への出馬などで有名な政治家である。「犯罪の街、ニューヨーク」を「家族連れにも安心な街、ニューヨーク」に変貌させる道筋をつけたことでも名をはせた。

 ニューヨーク地区連邦検事という仰々しい肩書きの職業から市長に転じたジュリアーニだったが、就任後に取り組んだのは「地下鉄の落書き」の一掃だった。これは当初、バッシングの対象となった。いきなり重大犯罪の防止対策に手をつけられなかったため、ジュリアーニは弱腰だとやゆされてしまった。しかしながら、ジュリアーニと彼をサポートした警察幹部には信念があった。小さな犯罪を徹底的に排除していくことで、ニューヨークではどんなに小さな犯罪であれ容赦なく罰せられるとのシグナルを送り、それが安全な街作りにつながるということだ。

 初めは馬鹿にされた取り組みだったが、彼の信念は実を結ぶこととなる。数年間のうちに殺人、暴行、強盗といった凶悪な犯罪の数が激減したのだ。地下鉄の落書き対策が大きな成果を生んだのである。

些細な作業が企業経営に与える影響

 ヒヤリ・ハット、あるいは1つの割れ窓。それ自体は小さな問題である。しかし、そこからの「負」の波及効果には目を光らさなければならない。経営学の研究の世界を見回すと、戦略立案におけるResource- based ViewあるいはPositioning Approach、それぞれの活用方法といった派手な研究に加えて、一見すると「小さなこと」、「些細なこと」が企業経営に与える重要性に注目した研究が登場してきている。そうした研究では、ヒヤリ・ハットなど小さな問題を見逃すべきではないという主張とともに、企業経営の本筋とは関係のなさそうな社内での些細な作業――その代表が「掃除」――が持つ役割に注目した研究も見られる。小さなことの「正」の波及効果についてだ。

 次回以降は、企業経営における「小さなこと」が持つ役割を詳しく論じていこう。





著者プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。



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