民主党の試練:藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)
日本が抱える財政問題、高齢化社会、人口減という三重苦を解き、本当に必要な将来への投資を考えられるのは誰なのか。
景気対策はどこへ
日本経済がそのような状況にあるという指摘はあちこちでなされていたのだから、景気対策のいわゆる4段ロケット(2008年度第一次補正、第二次補正、2009年度予算、そして2009年度第一次補正)も、どのように日本経済の構造変革を図っていくかに焦点が当てられなければなかったはずだ。それがいわゆる「アニメの殿堂」に象徴されるようなハコモノ、あるいは土木を中心とする従来型の景気刺激策にしかならなかった。
もちろんこうした景気対策の効果がゼロだというつもりはない。しかしハコモノはつくってしまえば終わりなのである。そこから先は、税金を投じて、維持管理することになる。お役人にとっては天下り先が増えることになるかもしれないが、国民経済的にはお荷物である。
こうした税金の使われ方を批判するのは簡単である。しかしそれではいったい何に税金を投じて、日本経済の構造を変えていくのか、ということになるとそう簡単な話ではない。民主党の岡田克也幹事長は「人への投資」とその政策を一言で表現していた。それはそれでまったく正しいと思うが、いま緊急に必要なことと、その先に必要なことを考えれば、「高校の無償化」はそれほど急ぐことなのだろうか。同じように高速道路の無料化もそれが景気対策になるという主張ならともかく、すぐに必要なのかどうか。
問題解決能力はどちらに
拙速に民主党が主張するような政策を取れば、それこそ財源で行き詰まるのは目に見えている。無駄を排除すること自体は官僚の中にも賛成する人はいるだろうが、官僚を敵に回せば、無駄も摘出できまい。日本の場合、先進国中、最悪の財政赤字と国や地方の借金を抱えているし、世界でも最速で高齢化社会に移行しつつある。さらに人口が減っている。この三重苦を解く方程式はいまだに発見されていないのである。
自民党がこの難問を解く能力がないことははっきりしている。それは政権政党である時代に、それらの問題を国民に訴えることをしなかったからだ。あえて目をそらしていたとしか思えない政党に、問題を解く意思も能力もないことは明白だ。
もっとも民主党にもこの難問は解けないだろうと思う。ただ、民主党にはこうした難問が存在すること、そしてそれを解かないと日本の未来は暗いことを認識するチャンスがある。何はさておき、そこから始まる。政権を取ればさっそく来年度予算の編成作業に入ることになるが、あまりそこで焦って人気取り政策をやるべきではない。各省庁の官僚とゆっくり話し合って、本当に日本の将来への投資を行うべきなのだと思う。
これまでの地方選で、有権者は民主党を選んだわけではない。「自民党を選ばなかった」のである。消去法から民主党が脱却できるかどうか、その長い道のりが今年9月から始まる。
著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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