【第9話】収束の技法:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
カードBS法によって約50の課題が洗い出された。問題解決のためには、収束の技法を使ってこれを構造化しなければならない。川口は、構造化のために必要な類型化(グルーピング)と抽象化について説明した。
類型化と抽象化
川口は説明を続けた。「イシュー・ツリーとKJ法では取りまとめのアプローチが少し違うけれど、共通する点は洗い出したアイデアを類型化(グルーピング)すること、そして一見バラバラのように見えるアイデアを関係付けて、分かりやすい形に抽象化して表現することにある。この類型化と抽象化の2つは、問題を整理する上で基本技といってもいいだろう。
業務の現場では、より具体的な問題や事象に目が向く傾向があり、直感的に思考しがちだ。しかし、具体的な事柄がただ列挙されただけでは全体像がつかみにくい。そこでバラバラに出されたアイデアの共通点を見つけ出して分類するのが類型化だ。それらをまとめて一言で表現するのが抽象化だ」
川口は、模造紙に並べられた付箋紙を見わたし、何枚かを拾い上げて読み上げながらホワイトボードに張り付けた。
ITによる事業への貢献度が評価されていない
IT投資の目的が達成されたか評価していない
IT化の効果を検証する責任を誰も負っていない
「この3枚は、IT投資の効果に対する事後の評価検証に関する課題であるのが分かるだろう。これを1つの小さなグループとしようじゃないか。この3枚をまとめるとすると、どう表現すると良いだろうか」
川口の問い掛けに、奥山と宮下は食い入るようにホワイトボードを見つめながら考えた。
「もちろん、この3枚をまとめた表現を考えて新たにカードを作っても構わない。でも、その前にすでに書き出したカードに中に適切なものがあるかもしれないので探してごらん」
すると今度は、2人同時にまるでカルタ取りをするように並んだカードを見わたし始めた。しばらくして、奥山が「あった!」と叫んで1枚のカードを高く掲げた。そこには「IT投資の事後の効果検証が行われていない」と書いてあった。
「そうだ。そのように小さなグループを作って、それを代表するような抽象化した表現でまとめていく。これが問題の構造化の進め方なのだよ。次回は、その要領でここに挙げたすべてのカードをまとめ上げていくことにする。今日はここまでだ」
日の長い初夏とはいえ外はすっかり暗くなっていた。今日の勉強会の内容は濃かった。アイデアを洗い出すだけでも、脳をフル回転しなければならない。帰り支度をした3人は誰から誘うでもなく、先週も立ち寄った和食処に向かっていた。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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