会話力:つい踏んでしまうプレゼン失敗の地雷(3/3 ページ)
とにかく話術に長けていて社内外のプレゼンに引っ張りだこ。皆さんの回りにもそうしたビジネスリーダーがいるはずです。しかし、話し上手だからといって必ずしもプレゼンが成功するほど甘くはありません。
話し上手よりも聞き上手に
Y君の例は、話上手な人が陥る典型的なパターンの1つでしょう。話がうまい人というのは、その武器を最大限に生かそうとします。講演会ならそれで結構でしょう。でも、プレゼンテーションは、相手の気持ちに応えることを話さないと絶対に成功しません。つまり、話す前に相手が何を解決したがっているのかを聞き出すことが最も重要だということです。
わたしは情報誌の編集長という仕事柄、毎日のように取材を行ってきました。ここで一番大事なことは、とにかく相手の本音を聞き出すということです。質問の内容、切り出すタイミング、相づちの打ち方などで話は盛り上がったり冷めたりします。話を聞くというのは、簡単なようで実に難しいのです。
プレゼンの前段階では、話し上手より、聞き上手に徹することが重要です。顧客の立場で考えてみれば分かるように、話を聞いてくれる人には、つい心を開き、本音を漏らしてしまうものです。聞くというのは、単に黙っているということではありません。相手の話に耳を傾け、きちんと受け止めるということです。話がうまい人の中には、相手の話を聞いているとつい自分が話したくなって、まだ相手は話半分なのに勝手に盛り上がってしまいとうとうと話してしまう人が多くいます。そんな人に限って、帰り際に「今日はいい話を聞かせてもらいました」なんて口にしたりするから始末が悪いです。
また、営業担当者がプレゼンを行う場合、相手は警戒していると考えるべきです。気心が知れた顧客は別として、初対面の重役クラスを相手にする場合、たいていは「こいつは売り込もうとしている」と斜に構えているのが普通です。たとえいい提案をしていても、「うますぎる話には裏がある」「おまえの口車には乗らないぞ」と懐疑心いっぱいで受け止められている可能性すらあります。
逆に、口下手でもプレゼンには強いという人がいます。わたしが出会った経験では、技術者に多く見られます。決して言葉が流暢なわけではなく、むしろゴツゴツとつかえながらぼくとつとした口調ですが、妙に説得力があるのです。プレゼンは地味だけど、提案内容は緻密そのものです。話し方は人柄を表すとも言われますが、真面目で誠実な印象を与える人というのはプレゼンでは強いものです。
皆さんの中には、プレゼンが上手な人は話が上手い、そう思っていた人が多いかもしれません。書店で無数に並んでいるプレゼンのハウツー本をみれば、相手を魅了する話術だとか、発声練習の重要性だとか、さまざまなテクニックが紹介されています。しかし、話が上手ならプレゼンがうまいと言い切れないのがプレゼンの難しいところです。そんな人ほどやってしまいがちな失敗があるということを忘れてはいけません。
著者プロフィール
中村昭典(なかむら あきのり)
元リクルート・とらばーゆ東海版編集長。現在は中部大学エクステンションセンターで社会貢献事業を推進。個人の研究領域はメディア、コミュニケーションおよびキャリアデザイン。所属学会は情報コミュニケーション学会、日本ビジネス実務学会ほか。
著書に『伝える達人』(明日香出版社)、『雇用崩壊』(共著、アスキー新書)。11月には『親子就活 親の悩み、子どものホンネ』(アスキー新書)が発刊される予定。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『中村昭典の、気ままな数値解析』は、メディアにあふれるありとあらゆる「数値」から独自の視点で世の中を読み解くスタイルが人気。
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