「消費者をファンにするマーケティングを」――ローソンエンターメディア 日比靖浩社長:【対談連載】石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(3/3 ページ)
好調なチケット販売業界において、ぴあに次ぐ業界2位の売り上げ規模をほこるローソンエンターメディア。マイケル・ジャクソンの映画チケット販売の工夫など消費者の心をつかむマーケティング戦略を聞きました。
既存資産の活用
インターネットが登場して以来、既存資産としてのコンテンツの活用が叫ばれていますが、その活用方法は知恵を絞ればインターネットに限るものだけではありません。ローソンエンターメディアでは、ODS(Other Digital Stuff)という、コンサートやイベントなど、従来の映画の枠にとらわれないコンテンツの映像化や映画館での放映という方法で既存資産活用を行うようになりました。通常、コンサートは1回限りなので、そのコンテンツの二次利用として、すでにDVDでの販売は一般化しています。しかし、考えてみれば、ライブは大きな施設で皆で見るものです。
ローソンエンターメディアでは、自宅のリビングで一人で見ると相場が決まっているDVDへの利用とは別に、その臨場感に着目して映画館で上映するという活用法があってもいいはずと考えます。その第1弾として、配給先のTOHOシネマズと組み、ハイビジョンでエリック・クラプトンとジェフ・ベックのライブ映像を上映することを決定しました。映画館の稼働率は約20%と言われ、劇場側の施設をもっと有効利用したいという要求ともマッチし、単価を2800円で上映する試みがなされています。
宣伝は、マス広告を利用する映画ビジネスと異なり、濃いファンに対するアプローチとしてメールやインターネットという広告媒体を中心に使っています。将来は、アーティストやファンクラブと一緒にODSを普及させ、コンサートを生中継する計画も実現したいと、日比さんの事業計画は広がります。
ソニーピクチャーさんともODS推進では協力関係にあります。10月末から期間限定で公開されるマイケル・ジャクソンのドキュメンタリー映画のチケット販売では、プレミアムチケットを発行することになりました。1300円の前売りチケットにシリアルナンバーを入れ、さらに将来とっておきたいと思わせるようなデザインを施したチケットを2枚組2600円でインターネットにて販売します。
店舗さえも媒体化
新しい媒体として注目したいのは、ローソンという店舗です。現在、ローソンでは、ローソンエンターメディアが発行するフリーペーパー「月刊ローソンチケット」を置いています。店頭に張られている4枚のポスターのうち1枚はローソンエンターメディアのチケット情報用に使われています。この店舗を媒体化する動きはさらに盛んになっています。店舗を商品などの告知媒体として利用しコマースを活性化する、店内放送で音楽を流し記憶してもらってダウンロードを促進するなど、日比さんのアイデアは尽きることがありません。
こうして1日900万人前後が訪れるローソンという店舗を顧客接点としていきます。このように店舗を媒体とすると、全国に行き渡る顧客接点が出来上がり、しかも、物理的なこの媒体はローカルな情報にも強い媒体となります。ローソンにとってもエンタメ関連の情報や商品とのコラボレーションは集客面で効果的なはずです。
インターネットが登場し、どんな会社が勝つかという問い掛けに対し、わたしは常に既存資産を持ち、それを活用できる会社と答えています。ユニークな顧客接点を持つローソンエンターメディアの将来性を大いに感じたインタビューでした。
著者プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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