読書も仕事も、効率より効果を重んじよ:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
昨今、薄く、読みやすいビジネス書がベストセラーになっているが、ビジネスの世界で生き残るなら骨太で「分厚い」本に挑戦すべきだ。
重要なのはリターン
先日、米国で人気のビジネス書評家、ジャック・コヴァートがまとめた「アメリカCEOのベストビジネス書100」という本の監訳を担当した。カリスマ書評家が推薦する名著100冊を紹介したガイドブックだが、紹介されている本の大半は骨太で分厚い。ジョン・D・ロックフェラーの生涯をつづった「タイタン」などは、上下巻で1300ページの大著だ。
ここで重要なのは厚さ(コスト)ではない。ここから何を学べるかというリターンなのだ。このガイドブック自体、500ページ以上あり、正直読むのは容易ではない。紹介されている本には絶版本や未訳本もあるため、すべてそろえようと思ったらそれなりに骨が折れるだろう。だが、そこに金塊があると知っていたなら、岩がどんなに厚くても掘るべきだ。ビジネスの世界では、参入障壁があることこそ喜ばしいのである。
そういう目で本書のリストを眺めると、実にもうかるガイドブックである。例えば、第3章「戦略を考える」で紹介されている、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」。名著として知られている本なので、既にご存じの方も多いかもしれないが、この本は起業を考えたとき、力になってくれる。ビッグビジネスの隙をついて業界地図を塗り替える。そのためのヒントが書かれている強力な本だ。
大企業が何らかの内的ジレンマで変化への対応を躊躇(ちゅうちょ)するときチャンスが訪れる。もし現在勤めている企業がそうなったら、起業のチャンスだ。
4章「販売とマーケティングのコツ」では、ロバート・B・チャルディーニの「影響力の武器」をお勧めしたい。同書は、社会心理学のバイブル的存在で、人間を動かす心理原則を6つ紹介している。返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性。この6つを完全に使いこなせれば、セールス、マーケティングの世界で大きな成果を上げられるはずだ。あなたがどんな優秀なビジネスマンであれ、人間は感情でモノを買うという事実を無視したら、成功はおぼつかない。
最後に、第10章「イノベーションと創造性」から、「発想する会社!」をお勧めしたい。この本の著者、トム・ケリーは、米国でもっとも尊敬されるデザイン会社IDEOのゼネラル・マネジャー。ちなみにIDEOは、アップルの最初のマウスや、パームV、サムスンのモニターなど、画期的な商品を世に出してきた会社だ。
著者によると、創造性の秘密は、ズバリ「観察力」にある。では、一体どうやって観察すればいいか。本書には、彼らがショッピングカートを開発する過程を通して、店頭での観察方法や、モノづくりの着眼点を伝えている。画期的新商品を開発したいと思うなら、間違いなく読むべき一冊だ。
いずれの本も、値段は高く、分厚く、しかも難解だ。だが、もしこれらの本が、今流行のビジネス書の最低でも10倍のリターンをもたらすとしたら、読んでみる気になるのではないか。
流行書の10倍もうかる本が100冊入った「アメリカCEOのベストビジネス書100」。興味がわいたら、ぜひ読んでみていただきたい。
著者プロフィール
土井英司(どい えいじ)
1974年生まれ。出版マーケティングコンサルタント、ビジネス書評家。慶應義塾大学総合政策学部卒業。Amazon.co.jpの立ち上げに参画、“アマゾンのカリスマバイヤー”と呼ばれる。2004年、有限会社エリエス・ブック・コンサルティングを設立し、代表取締役に就任。読売新聞読書面「ビジネス5分道場」の執筆やBS11「ベストセラーBOOK TV」(毎週土曜20:00〜20:55)にレギュラー出演するほか、自らのメールマガジン「ビジネスブックマラソン」でも執筆中。
著書に『成功読書術』(ゴマブックス)、『「伝説の社員」になれ!』(草思社)のほか、11月に監訳書『アメリカCEOのベストビジネス書100』(講談社)を出版。
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