「従来型の企業宣伝から脱皮するチャンス」――花王 本間Web技術室室長:石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/3 ページ)
50年にわたる広告代理店の歴史を作ってきた名物宣伝部長たちの定年退職によって世代交代が始まる今こそ、企業のマーケティングが変化を遂げる絶好のチャンスです。
CMOの必要性
本間さんは、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)が必要であるという意見の持ち主です。しかし、この意味合いはマーケティングが重要だからCMOが必要という単純なものではありません。コンシューマーパッケージグッズの会社として、マーケティングとブランディングという似て非なるものの重要性や、インターネットがつまるところ組織論に及ぶという考えからです。
わたしは企業のWebの作り方を大きく分けて「中央集権型」と「分散型」と呼んでいます。コーポレートカラーが強いものは中央集権型で、分散型は商品色が強いものです。例えば、コーポレートの統治権が強い会社のWebの代表例がIBMで、分散型の代表はP&Gです。後者は、商品ごとにWebが展開され、ブランディングも会社より商品がメインです。
P&Gと同じく、花王もコンシューマーパッケージグッズの会社なので、Webにおいてもブランドごとに単発のマーケティングをすることが同社のインターネットの主流だといいます。しかし同時に、本間さんは1つ1つの商品マーケティングを重ねることと、コーポレートのブランディングの両方が重要だと考えています。Webでは、商品を知りたい人には商品を、その背景を知りたい人にはコーポレートを見せていかないといけないのです。コーポレートブランディングとしてIMC (Integrated Marketing Communication=統合的マーケティング・コミュニケーション)の必要性を感じ、それをWebで展開しています。
そこでの最大の問題はCMOがいないことです。ブランドごとの展開をつなげるイメージを出すには、横串の機能が必要で、その役目がCMOなのです。もちろん、CMOの役割(コーポレート)は業態によって違いますが、ブランドが強くても、コーポレートブランディングが必要であることに変わりはありません。化粧品会社は商品ブランディングを重視しますが、コンシューマーパッケージグッズの会社ではコーポレートブランディングが大切だといいます。消費者にとって、化粧品は技術より美的なブランド価値のほうが高く、技術背景より情緒感を重視します。それに比べてコンシューマーパッケージグッズはブランドの陳列だけでなく会社でチェックする消費者も多いといいます。信頼性が重要、だからCMOが必要であるという意見なのです。
代理店依存は解消できるか?
本間さんは、インターネットの出現により企業のマーケティング業務は変わるべきだし、それには宣伝部やマーケティング部、そして広告代理店も統合したマーケティングに変わるべきだとおっしゃいます。いささか辛口ですが、わたしは、米国に比べ日本のマーケティングが遅れているのは、マスメディアの希少価値が高く、メディアレップとしてマスメディアの広告枠を代理店が所有していることにより、企業宣伝部が広告スペースだけでなく業務に関しても代理店に強く依存しているためと考えています。
しかし、インターネットによりその構図は一変されるべきで、企業内にもマーケティング業務を遂行する専門家がいなくてはなりません。代理店への依存構造が変わらない限りこの移行が進まないのではないかとわたしは思っているのですが、本間さんは鋭い視点でこれを否定してくれました。
本間さんによると、今、いわゆる有名宣伝部長がリタイアする時期なのです。この人たちは企業宣伝部が設立されたころに就職した方々です。いわゆる、約50年のTVの歴史=代理店の歴史を作ってきた方々です。宣伝部の予算拡大に尽力なさった方々で、これは日本のマーケティングの歴史といっても過言ではありません。この方々は、〇〇会社の△△さんというように固有名詞で呼ばれる人たちです。
ところが、次世代の40代、50代の方々は、〇〇会社の宣伝部の方々に過ぎないという明らかな違いがあるのです。つまり、企業内のマーケティング担当の方も、マスメディア中心の仕事を相変わらずしている方から、IMCの必要性を説きながらも方法論としてはマスメディアにインターネットをとりこもうとしている人に変遷し、さらにそれが、本格的にインターネット中心のIMCを勧めようとしている人に変遷していく、というプロセスを経て、マーケティングが変わっていくことになるのではないかとおっしゃいます。
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