「従来型の企業宣伝から脱皮するチャンス」――花王 本間Web技術室室長:石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(3/3 ページ)
50年にわたる広告代理店の歴史を作ってきた名物宣伝部長たちの定年退職によって世代交代が始まる今こそ、企業のマーケティングが変化を遂げる絶好のチャンスです。
花王のWebの現状と戦略
花王のWebサイトでもPCサイトのアクセス数は成長率が鈍化しているようです。その中で、大切なことはアクセス数ではなく、ターゲティングユーザーにふさわしいコンテンツを出していくことです。小売店舗の例でいえば、ドラッグストアの顧客までも百貨店に呼んでしまう必要はないわけです。
一方で、携帯への投資を徐々に高めています。2007年から取り組みを強化しているという携帯Webサイトの方針は、まずPCと同じことをやろう、PCのレベルまでWebを高めようとしていることです。携帯でのマーケティングは、まだまだ課題があります。キャリアはブラウジングの時間情報を提供してくれず、マーケティングが重要視される会社であるほど指標が必要となるために投資しにくいのです。
花王はiPhoneのサイトも構築しました。その理由は、iPhoneのユーザーはブラウジングが目的で購買する人が多いので、販売台数=ブラウジングだと理解しているからです。この考え方は、アンドロイド携帯やスマートフォンの普及で一気に標準となるのではないでしょうか。
ただし経験則から、PCと携帯でのマーケティングの違いを感ずるところもあります。例えば、PCのサーチエンジンキーフレーズと携帯のそれは違います。本間さんはPCのキーフレーズは装っていると表現してくれました。PCの「鍋 汚れ」に対し、携帯は「鍋の汚れを落としてください」というものです。携帯の方が生活やインサイトを想像するものが多く、せっぱつまったQ&Aやトラブルシュート型が多いのです。博報堂の調査によれば、携帯は生活コミュニケーションツールであるということですし、それが、携帯ユーザーの特性かもしれません。本間さんは、今まで企業は生活コミュニケーションに入った経験がなく、楽しみだとおっしゃいます。
そのために、とりあえずPCと同じインフラをつくり、そこから携帯特有の改善をしていく。かなり携帯のほうが面白いことができそうな気がするというのが花王の姿勢です。
デバイスに関して言えば、茶の間には必ずTVがあるという感覚はなくなってきています。マスマーケィングでTVを制覇すれば勝ちという時代は終わり、一方で、TVがなくならないことも認識したわたしたちは、マーケティングには、マルチデバイス、マルチコンタクトを駆使することが必要と分かりました。しかし、コンタクトポイントは増え続け、顧客はそれをスキップする権利があります。コンタクトの選択権は完全に顧客のほうに移行したのですから、自社メディアであるWebでは、情報提供やクレーム対応の必要があります。
マーケティング指標をどう設定するか?
今後のマーケティングには、数値目標とその計測が欠かせません。しかし、それら数値目標=KPIをどう設定するかの方針は各社バラバラです。しかも、KPIを設定し予測通りにいった、もしくは、失敗したというマルバツ式の計測しかしていないのが現状です。
本間さんは、KPIの選択に工夫が必要だとおっしゃいます。売り上げなのかリーチ数なのか、どちらが正しいのかを論議し、その予測をしっかり立てることが必要です。予測回路が正しくなってから、アルゴリズムを設計し、成功体験を後世に残すべきです。
そのKPIはまだ不連続な点のデータであることが多いのですが、本来は、曲面か線で計るようにすべきです。認知率はブランドであり、潜在ユーザー数をベンチマークとして、2カ月後にリピーターを計測するなど、いくつかのデータを時系列的に計っていく作業が必要です。1個目と2個目がつながらなければ、その間に何かのKPIを入れることで、不連続データを連続的にしなければいけません。
インターネットのうまみは数値測定ができること、インターネットを経由してメジャーメントすることが必須課題です。実は、ほかのマスメディアでもWebで計測するという動きが出ています。いくつかのブランドでは、TVの投入、雑誌の掲載、店頭の訪問率などの相関関係が分かりかけているのです。
本間さんのお話を伺っていると、明らかにマーケティングが科学になってきていることが分かります。
著者プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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