金融の視点を認識すると会社の成長が見えてくる:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
金融機関との付き合いは会社経営には欠かせないもの。優良会社だと認められるのを待つばかりではなく、自社の魅力を積極的に伝えることにより可能性が広がる。
金融機関は優良会社を探し続けている
一方、大量の資金が借りられようになったからといって喜んでばかりいると、とんでもないことにもなります。急激な負債の増加での事業拡大は多くの場合、経営危機を招来します。なんらかのきっかけで金融機関の貸し出し姿勢が変化した場合、負債に依存した財務体質では会社はもろくも崩れ去ってしまいます。あたかも飛行機が急激に上昇することで、上昇角度と速度とのバランスを崩し、ある時点で突如として失速し墜落してしまうのと似ています。経営とりわけ財務管理においても限界的な上昇速度、つまり標準的な財務バランスを常に意識することが大切です。
ところで、金融機関は優良な貸出先の開拓を絶えず行っています。ただ残念なことに、なかなかそういった会社を見つけることができずにいます。将来性のある事業、手堅い事業といったものを金融機関が発掘するのはかなり困難です。優良会社を見いだす情報をとらえることが外部観察だけでは難しいからです。その上、現実的には日本の会社259万社のうち33%しか法人税を支払っていない(国税庁 2008年度会社標本調査結果)ということからも、簡単に融資先を決定するのは厳しい現状にあります。
会社の側も積極的に金融機関を意識した情報発信や、健全な財務体質を築こうとしてきたかといえば、そこまで意識をしてはいなかったのではないでしょうか。だからこそ、金融の世界から見てどうすれば優良会社と見られるのかを意識して、情報発信することはかなり有効なワザになるわけです。数字を軸におきながら会社の魅力を伝えるというやり方です。
初心者にも分かる会計
ただ、そうはいっても会計の話となると、一筋縄ではいかないのも事実です。数多くの会計解説書が出版され続けていることからも、理解に苦戦している方が多いことが見て取れます。そんな初歩の初歩でつまずいている方にお勧めしているのは、貸借対照表や損益計算書を実数字ではなく、百分率だけで理解する方法です。
まず、自社の各種数値を大ざっぱにつかんだ上で、優良同業他社のそれと比較することから始めるのです。会計数値の詳しい読み方を身に付けていなくても、自社のどの部分を改善すれば良いのか、まずはベンチマークを設定することができます。そのときに一般公開されている有価証券報告書や四半期報告書などの資料も参考になります。そこはネタの宝庫です。
具体的に数字を意識しながら経営行動に移す際、少し専門的な会計の解説書を読んでみると、一気に理解が進みます。とりわけお勧めなのは、会計学という学問の入門書から読むことです。遠回りのようですが、会計学を理解しておけば、会計基準が変更されても応用が利きます。
拙著ではこの金融機関への情報提供の仕方をBR(バンクリレーションズ)と名付け、そのコツを解説しました。さながら中小企業版IRといったところです。
資金循環の目詰まりが深刻な日本の金融情勢。改善の道は資金の出し手である金融機関の審査能力の向上もさることながら、資金の受け手である会社側が歩み寄る余地もかなりあります。それは金融機関の貸出審査を「審査してもらう」のではなく、自社で立案した経営計画を「再検証させる」といった考え方への変化でもあります。
金融の世界からの独特のものの見方が存在する、そんなことをちょっと意識されてみてはいかがでしょうか。
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著者プロフィール
中尾光宏(なかお みつひろ)
パスファインダー・コンサルティング代表。経営“管理”コンサルタント。
1965年大阪府生まれ。信州大学経済学部卒業。神戸大学大学院修了(MBA)。企業の内外から経営の補佐役として一貫したキャリアを積む。北海道拓殖銀行に入行後、ベンチャー企業のファイナンスと支援に携わる。のべ約8000社の企業を見極め、企業における人とカネの目利きの神髄を身につける。
大手ゲーム会社に転身後、人事・採用教育業務を中心に従業。企業審査ノウハウを採用選考などに応用し、優秀人材の採用育成の実績に結実させる。その後、幅広い経営管理の経験と実績を買われ、ベンチャー企業の創業に参画。東証2部上場企業執行役員管理本部長などを経て現在に至る。
著書は『お金を借りる秘訣は、お金を借りない努力を10倍すること』(クロスメディア・パブリッシング)。
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