海外に後れを取る日本、官民一体となり産業を育てよ:NTTデータ社長とNRI会長が対談
ライバル会社のトップが競演――。NTTデータの山下社長と野村総研の藤沼会長がIT業界ならびに日本の産業全体にかかわる課題に対して共通の見解を示した。
NTTデータと野村総合研究所(NRI)は2月26日、IT業界に向けたセミナーイベント「ITと新社会デザインフォーラム 2010」を開催した。対談セッションでは、NTTデータの山下徹社長とNRIの藤沼彰久会長兼社長がITサービス産業の将来に対する提言を行った。
同じIT業界に身を置く両社は、システムインテグレーターやITコンサルティングサービスなどの分野において、いわばガチンコで競合している。にもかかわらず、なぜ今回イベントを共催するに至ったのか。モデレーターを務めたキャスターの福島敦子氏が問い掛けると、人材育成に関する共通課題があったことを山下氏は明かした。
3K(きつい、帰れない、給料安い)という言葉に代表されるように、IT業界は過酷な労働環境を強いられるという認識が浸透してしまっており、若手の人材不足などの問題が叫ばれて久しい。各企業は人材の獲得や定着化に躍起になっている。NTTデータでは裁量労働制や在宅勤務を推進し、社員の満足度を高めるとともに学生にアピールする努力をしているが、「状況はあまり変わっていない」(山下氏)というのが実情だ。「(人材に関する問題は)企業個々ではなく業界全体の問題として議論すべきである」と山下氏が強調すると、藤沼氏も「1社よりも2社で提言活動を行った方が好ましい」と応じた。
海外諸国との違いを痛感
IT人材育成に対する山下氏の思い入れは人一倍強い。かつて日本経団連の情報通信委員会で高度情報通信人材育成部会長を務めていた山下氏は、米国、韓国、中国、インド、アイルランドなどを視察した際に大変ショックを受けたという。
「各国とも高度なIT人材を育てるために尽力していた。例えば、韓国情報通信大学校(ICU)は政府が数百億円投じながらも国立大学ではなく私立大学として設立し、自由度を持った教育カリキュラムを構築した。学長はサムスン電子出身の情報通信大臣が務め、優秀な卒業生はサムスングループが支援するという体制を作り上げている」(山下氏)
海外の現状を目の当たりにした山下氏は、さっそく政府や官公庁、関係機関などにIT人材育成の重要性を働きかけるが、真剣に耳を傾ける者は少なかったという。「数年にわたり国に訴え続けてきたが、まったく進ちょくしていない。その間にも韓国では次々と優秀な人材が輩出されている」と山下氏は残念がる。藤沼氏も「国や業界を動かすには一企業ではできない。今こそ官民一体でこの課題に取り組まなければならない」と同調した。
日本において官民の連携が不十分なのはIT業界に限った話ではない。昨年12月にアラブ首長国連邦(UAE)における原子力発電所の建設受注をめぐって、官民が一丸となった韓国に敗れるなど、さまざまな産業でその後れが指摘されている。「(海外と戦っていくには)オールジャパンで取り組むべき」と福島氏は指摘する。
日本もかつては官民が一枚岩となり産業発展を推し進めてきた。ところが、日本が経済成長して「Japan as Number One」と言われ出すと欧米から官民一体は公平でないとバッシングされるようになった。「そうした批判に対して日本は臆病になってしまったのではないか」と山下氏は話す。その結果、今では官が民を支援することがあたかも悪であるかのように言われることすらあるのだ。
「今後の日本は(少子高齢化などの影響で)ますます税収が増えなくなり、国債を発行し続けなければならない。危機感を持って官民がお互いに協力する時代が来ているのだ」(山下氏)
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