【第21話】部長の決断:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
これまでの検討の成果を部長たちに発表する日がきた。川口の指導により、4人が役割を分担し、プレゼンテーションを行った。熱のこもった質疑応答の末、情報システム部長の秦野は、即決である決断を下すのだった。
質疑応答はライブ
4人が前に並び「それでは、質疑を受けさせて頂きます」と奥山が場を仕切った。口火を切ったのは経営企画部長の吉田だった。
「質問ではないが、まず感想を述べさせてもらおう。プレゼンテーションの流れもよく、分かりやすくまとまっていた。それに、検討した内容も短期間で準備したとは思えないくらいしっかりと吟味されていて、わが社の問題点を的確にとらえていた。素晴らしいプレゼンテーションだったよ」――絶賛ともいえる評価だ。
「オブザーバー参加の立場から恐縮なのだが、1つ質問させてもらってもいいかな」と人事部長の渡辺が、秦と川口の様子をうかがうように発言した。川口は、すかさず「もちろんです。どんどん質問して下さい」と切り返した。
渡辺は、「それでは」と4人の方に向きなおして「今回のこのテーマ、『なぜ、なぜ、ITが事業に貢献できていないのか』というのは、川口君が提示したのですか」と尋ねた。
これに対しては宮下が「いいえ、テーマ自体も自分たちでブレインストーミングをして決めました。ただし、我々だけでテーマの洗い出しをやっていると、身近な小さな問題ばかりを取り上げる傾向にありましたので、川口さんのアドバイスで、より重要で大局的なテーマを設定することに心がけました」と回答した。
「なるほど」と渡辺は感心した表情で、今度は川口に問いかけた。「このような問題解決の勉強会は、一度に何人くらいまで参加可能ですか」
「そうですね。5、6人程度で議論すると最も活性化すると思います。また、2つのグループでそれぞれに議論して、それを互いに発表するという方法をとれば、さらに刺激し合えるので、その場合は10人くらいでもいいかもしれません」と川口が即答した。
渡辺は、少し興奮した面持ちで、次に秦部長に向かって話し始めた。「秦さん、この勉強会を全社の若手育成研修として展開できないでしょうか。自分たちで大きなテーマを掲げて議論し、結論を導き出すという能力は、営業部門であれ、製造部門であれ、会社のどの部門でも求められています。人事部が全面的にバックアップするので、是非一緒にやりませんか」
これまで、沈黙を守っていた秦が口を開いた。
「渡辺さん。是非やりましょう。まずは、川口君に新しく展開する研修会の講師をやってもらいましょう。それから、これまでの受講者だった4人には、別の任務を担ってもらおう。今日提言してくれたこと、『経営者が参画するIT戦略委員会の設置』『ユーザー向けにITに関する啓発セミナーの定期開催』『技術シーズの調査・適用性検証に関する発表会』『短納期システム開発手法に関する研究会の設置』の4つは、今期内にすべてスタートさせるべく、早速実行計画に落とし込んでもらおう。
そして、それぞれ1つずつを担当し、プロジェクトのリーダーとなって遂行してもらうことにしよう。もちろん、実行に必要な人員やリソースは計画に盛り込んで要求してもらって構わない」
この急展開に、4人は目を丸くした。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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人材育成は重要だ。これはどの企業も理解していることだが、即効性のなさから二の次になりがちである。しかし将来の経営を見据えた場合、若手社員の成長なくして企業の成長はない。