ポスト鳩山政権の見極め方――東大の伊藤元重教授(2/2 ページ)
日本ユニシスは年次フォーラム「BITS2010」を都内のホテルで開催した。ポスト鳩山政権を日本国民が見極めるための4つのポイントを指摘した。
縮小均衡経済への大波
関連した数字で、アジアにおける中間所得者層(年間所得5000ドル以上)の数は1996年が1億6000万人。これが2008年には8億8000万人に増えた。富裕層を入れれば9億5000万人に上る。これが、次の10年でさらに5億人増えると見込まれている。
この数字が意味するものは何か。日本企業は、アジアを中心としたグローバル市場に出なければ今後収益は頭打ちである、ということだが、それだけではない。もっとこわいのは「日本にもいられなくなるかもしれない」リスクだという。伊藤氏は、台湾のメーカー、Foxconnの例を挙げる。従業員55万人を抱え、AppleのiPhoneやXperiaなどの生産を一手に引き受けている。
「10年後、中国はGDPで日本の3倍の規模になる」。その中国の製品が、グローバル経済の中で今以上に日本に押し寄せてくるのは必至だ。
人口減を見込む日本において、日本企業が取るべき選択肢は、身の丈にあった形でのグローバル展開と製品の差別化。さらにもう1つとして、残念ながら起こるであろうサバイバルレースへの参画だ。
「この20年間、日本では一度もデフレギャップが解消していない」。デフレギャップとは、総供給が総需要を上回っている状態。つまり、ある業界のすべてのメーカーが製品を生産した場合、その生産量よりも消費者の需要が20年間常に小さかったことになる。逆に上回っていればインフレギャップということになる。
「多くの業界で、今後デフレギャップが解消されることはない」(伊藤氏)
これを前提にした場合、次に起こることとして容易に想像できるのが厳しいM&A競争だという。
少子高齢化によるビールへの需要減を見込んだキリンビールは、同業ながら異なる製品ラインを持つサントリーとの統合を図った。結果的に破談に終わったが、将来を見据えた企業戦略としては当然の動きだと伊藤氏は指摘する。
ガソリン業界にも注目すべきという。低燃費車や電気自動車の普及により、ガソリン需要の減少は既に目に見えた未来だ。今、ガソリン各社が考えているのは徹底的な撤退戦略。「エクソン・モービルはガソリンスタンドを6割減らす」ともいわれる。新たな時代に適応するために、競合他社を退け、生き残るための冷酷な縮小戦略を余儀なくされる可能性がある。このように、いったんかがんだ後、縮小均衡を実現した後に、将来に向けたジャンプができるような戦略を描き始めていると伊藤氏はみている。
では、日本企業が成長するための鍵は何か。同氏はやはり、ユニクロのSPAモデルを筆頭事例とした、ビジネスモデルの構築を挙げた。ユニクロのモデルは、少品種大量生産をモデルとし、素材の大量買い付けによる低価格戦略を軸にしている。それを国内の800弱に上る店舗とインターネットを使って大量に売りさばく。後発企業がまねしようと思っても同じ規模、ブランド力をすぐに用意するのは難しい。「製品、ブランド、ビジネスモデルの3つが成功の条件」だとしている。
「企業ができることは3つ。もっとがんばること、競争相手を(もちろん合法的に)抹殺すること、差別化すること。もしかすると2番目が一番大事かもしれない」(同氏)
「脅し」を交えながらも、日本企業の未来の成功へのヒントをささやくにように語りかける伊藤氏の話に、多数集まった来場者は聞き入っていた。
関連記事
- ドイツ証券誤発注 大証社長「超高速取引への対応を検討」
- 大証で10兆円の誤発注 過去最大、ドイツ証券 日経平均先物取引で
- 東証の国際化を促すテクノロジー
- 日本人駐在員との給与格差「50倍」やり玉 中国ホンダ系工場スト
- 弱点克服へ 小売り各社が客層開拓
- 「迅速かつ力強い行動」で危機阻止 米財務長官、欧州当局者と会談
- 日本方式の「地デジ」コスタリカも採用 海外7カ国目
- 「心残りは税財政改革」御手洗経団連会長 退任会見
- 自律回復の“芽”みえる、1〜3月期GDP 国内外に懸念も
- 外国人観光客52万人、国際会議75件を誘致 政府観光局
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.