IT業界、戦略の甘い買収はそろそろやめる時:戦略コンサルタントの視点(3/3 ページ)
国内のIT市場には大きな成長が見込めない中で、合併による成長を目指し、手段として企業買収を視野に入れる経営者が急激に増えてくることになります。
戦略実現のための有機体へ
労働集約にせよ設備投資にせよ、単に同じような特徴を持つ企業群が、統制力がないグループという傘の下に集まっても、売り上げや利益を押し上げることはできません。逆に、いったん市場環境が悪化した場合には、経営陣は業績が悪いグループ企業の手当てに負われ、ますます成長戦略を描くことが難しくなってしまいます。
ホールディングス制という形態も、事業そのものの迅速な意思決定や、強固なガバナンスには不向きであるという面があることは否定できません。ホールディングス制を採用する場合でも、グループ会社のガバナンスに専念する純粋持ち株会社制ではなく、本業を行いながら子会社を統括する事業持ち株会社制の方が効果的な場合が多いのではないかと考えられます。
ただ、大事なことはホールディングス制の在り方を議論することではなく、買収後の事業や資源のポートフォリオを描き、買収したベンダーの内部にも深く踏み込み、グループ間連携や統合を実現し、1つの企業、有機体として存在していくことです。
これを成功させるためには、買収前のデューディリジェンス(事業精査)を適切に実施することが不可欠です。対象ベンダーの強みや自社との相性・シナジーの正確な理解がなければ、買収後の成長戦略を描くことは不可能です。
また買収後にはPMI(Post Merger Integration)と言われる「事業・組織の統合化」の巧拙が、成長戦略実現の成否を分ける決定的な要因になります。
次回以降は、これらの「システムベンダーへのデュー・ディリジェンス」と「PMI」について考えてみることにします。
経営者向け情報を集めた「ITmedia エグゼクティブ」の記事一覧をチェック
著者プロフィール:大久保 達真(おおくぼ たつま) プロジェクト マネージャー 株式会社ローランド・ベルガー
慶応義塾大学理工学研究科修了後、三菱マテリアル、ネットワンシステムズを経て現職。米国コロンビア大学MBA。情報通信業、電機、自動車、金融、航空業界など幅広い業界における、事業戦略、新規事業立案、組織・人材戦略、マーケティング戦略、IT戦略の立案とともに、大規模PMOの運営などの実行支援も手がけている。システムアナリスト、システム監査技術者の資格を保有という一面を有する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 価値ベースの提案を――システムベンダーの営業スタイルを変えるために
- IT業界に構造変化 「第2の繊維産業化」のおそれも
- IT業界に構造変化 大手ベンダーの戦略転換と大量雇用減の可能性
- 情報システム子会社――再生か売却か
情報システム子会社が「低コストオペレーションの限界」という課題を抱えながら存在意義を失いつつある。今回は人材に焦点を当て、この問題について考えてみたい。 - 企業のSEを戦略コンサルタントに変える方法
- 情報システム子会社――経営の頼もしい味方か、お荷物か
- Twitterは企業のマーケティングを変えるか
- 無料化するクラウドの世界、その理由と注意点
- 無料化するクラウド、潜む落とし穴〜後編
- 無料化するクラウド、潜む落とし穴
- CIOは本当に必要か? 〜後編
- CIOは本当に必要か
- 変化する情報システムのパラダイム