夢をかたちに:伴大作「フクロウのまなざし」(3/3 ページ)
富士通の山本正己新社長が7月9日に自らの経営方針を発表した。業績回復の見込みが消極的だったことについて、僕の考えを記す。
夢をかたちに
広く知られている富士通の標語だ。1985年、富士通創立50周年を機にスローガンとして制定された。長年富士通の経営者に引き継がれている富士通精神の根幹を表す言葉といえる。
しかし、近年「Fujitsu Way」とか「shaping tomorrow with you」とか、やたらに英語の言葉が散乱し、「夢をかたち」はその重みを失いつつあるように僕には見える。
それで、今回の記者会見で山本社長に「山本社長にとって夢をかたちにとは何でしょうか」と尋ねた。
彼の回答は「shaping tomorrow with youに表されるように、顧客とともに未来を創造することだ」という。僕は、その回答にちょっと違和感を持った。
富士通の歴代経営者には、国産コンピュータベンダーの中で、最も小さな存在だった富士通を一日でも早く世界的に知られるIBMのような会社にしたいという思いがあったに違いない。また、日本人技術者が作ったコンピュータが世界的なレベルに負けない製品づくりを夢見たに違いない。その思いが「夢をかたちに」という結晶している。
彼らのこの言葉に込められた「思い」を考えると、山本社長の回答はあまりに軽すぎる。優等生的な回答で心や思いがこもっていない。
先人がこれまで培った技術的な積み重ね、経営上の困難さを乗り越えてきた挑戦者としての歴史、それらに山本社長が思いを巡らしているなら、もう少し別の表現があったのではないだろうか。
山本社長の言葉には今後の富士通をどのように導こうとしているのか皆目見当がつかないし、それらに賭ける彼の情熱も感じられない。
山本社長に望みたい。今は富士通始まって以来の厳しい環境にあるといえる。そこで社長に求められるのは、もう一度、富士通の原点である「夢をかたちに」の精神に立ち返り、落ち込んだ社員の士気を上げ、社員が考慮の憂いなく、厳しい経済戦場に再び立ち向かえるような雰囲気を醸成することだ。
それが社長の最大の使命だ。富士通をここまでの規模に育て上げた先人、あるいは現社員の人たちに報いることになるのだと理解してもらいたい。
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