コングロマリットの横ぐしにリーダーシップを持つ人材を育成―GEキャピタル松本氏:ITmedia エグゼクティブ セミナーレポート(2/2 ページ)
組織の持続的な発展、そして規律ある活動には、リーダーたりうる人材が重要だとするGE。その人材に求められる資質や育成プログラムはどのようなものなのか。また、人材の活動を支えるシステムとは、どのようなものなのか。
継続と革新、規律と混沌の矛盾を克服するための人材戦略とIT戦略
GE株は、ダウ平均株価が1896年にスタートした当初から指定銘柄とされ、かつ現在まで残る唯一の銘柄だ。100年以上もダウ指定銘柄から外されずにいるということは、当然ながら大きく沈むことがなかったという事実でもある。持続的に成長を続けてきた一方で、GEは環境に応じた革新を繰り返してきていることでも知られている。
例えば、近年ではウェルチ時代から現在に至るまで、「Work-Out」活動にはじまり、シックスシグマやリーンシックスシグマなど各段階を経て改革が進められている。この改革の前には、規律を重んじるあまり官僚的になってしまった組織があった。しかし一方で、革新をすれば混沌が生じがちだ。それをどうやって規律していくのかという課題が、常につきまとう。
「一見すると矛盾もあるように見えるGEの経営だが、実はその矛盾の克服が130年の歴史だったのではないかと思う」と松本氏は言う。
矛盾を克服するためにも、人材や、その価値観や実行力が重視されるようになってきたということなのだろう。この人材の実行力を支える基盤として、組織のさまざまなメカニズムが用意されており、その一環としてITも重視されている。例えばHR(ヒューマンリソース)データベース。世界中の人々が同じ人事システムを使うことで全世界共通の基準で人材を評価することを可能とし、グローバルな人材活用に役立てている。
「以前は国ごとに、あるいは買収した企業などの単位で個別の人事DBが存在していたのだが、それを統合して約30万人のHRデータベースを作り上げた。この基礎があってこそ、内部統制や業務プロセス・ワークフロー、グループウェアなどを全社的に展開することができる」(松本氏)
このようなシステム統合は、事業の買収を少なからず行うGEにとっては、たびたび必要となる。松本氏も、GEキャピタルジャパンCIOとして、買収後の組織統合を手掛けた経験がある。同氏の担当する情報システム部門でも、買収後の混沌を整理・再統合が必要となったのだ。
「まず組織図の上での統合に始まり、組織内で用いるアプリケーションの共通化を進めつつ体制を整理していき、文化を統合していった。こうしてようやく、アプリケーションの数を減らすことができる」(松本氏)
管理者でなくリーダーを育てるための育成プログラム
コングロマリットを貫く横ぐしとしても、規律を維持しつつ変革を続けていくためにも、GEにとって人材は重要な存在だ。最後に、その育成プログラムの一端を紹介しよう。
「管理者になるな、リーダーになれ」というウェルチ前CEOの言葉もあり、GEでは特にリーダーシップを重視している。
「どの国でも車の操作が同じであるように、どの国に行ってもすぐ仕事ができるようなリーダーを育てることを、GEは目指している。例えば、社内には横ぐしと縦ぐしとがあり複雑だが、その中でシンプルに考えていかないといけない。前に挙げた4つの資質のうち『明確な思考』というのは、このことを示している。そういった人材を育てていくようなプログラムが社内にある」と松本氏は語り、リーダーシップ育成プログラムについて説明した。
GEのリーダー育成では、社外から人材を獲得する例も多いという。選ばれた人材は、半年ごとに違う事業部に配属され、実際の現場でプロジェクトを担当し、半年で結果を出すことが求められている。その中で、トップからのコーチングや集合教育なども実施され、実務を通じてリーダーシップを身に付けていくのだ。そのローテーションは4回、都合24カ月間に渡って実施される。
これには、人材を育成すると同時に、集中したい事業に人材を重点配置するという意味もあるとのことだ。また、プログラムの参加者は、このローテーションでさまざまな事業を経験することになり、幅広い人脈の構築も期待できる。
リーダーシップ育成プログラムは部門ごとに用意されている。例えばIT部門では、GEにおける将来のITリーダー候補となる人材の育成を目的とした「IMLP」(Information Management Leadership Program)というプログラムをグローバルに展開している。
このIMLP卒業生の一人、野間文子氏は、GEに勤務してITリーダーを経験し、後に別の企業へ移ってIT部門の責任者を経験、そこから再びGEに戻ってIMLPに参加したという。
「多角的なGEだからこそ違うビジネスを経験できる。IMLPでは、トレーニングで学んだことをすぐ実行に移すことが期待されているし、それができる環境でもある」と野間氏は言う。
今後さらなる活躍が期待される野間氏。IMLPを通じて学んだことを活用していくと語った。
「例えば、プロジェクトマネジメントのスキル。さまざまなステークホルダーのニーズに対応しつつ、時間やコストをマネジメントしていくことを学んだ。また、横断的なコミュニケーションスキルも身に付いた。クロスファンクション・クロスビジネスの現場でのコミュニケーションや交渉の能力だ。そして“Edge”、物事を深く考え、さまざまな方向からのリスクを考えつつも、迅速に判断することを学んだ」(野間氏)
野間氏のようにIMLPを修了した人材は、日本でも30〜40人、グローバルには200〜300人に上るという。彼らは、今後のGEの成長を支える貴重な人材となっていくことだろう。
「そろそろ、この中からCIOが出てくるのではないかと期待している」(松本氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- IT投資ポートフォリオの作成は、CEO、CIOのミッション――武蔵大学の松島教授
ITmediaエグゼクティブは「第11回 ITmediaエグゼクティブ フォーラム 戦略的経営の第一歩はITプロジェクトの可視化から」を開催した。 - コミュニケーション基盤を整備し全社員の働き方を変革 CCC
カルチュア・コンビニエンス・クラブは、2009年4月に実施したグループ会社の再編・統合に伴い、組織とワークスタイルを大きく変革している。そのために、新たな企画の創造を支援すべくコミュニケーションの基盤を刷新した。 - 不況を人材育成の追い風に ITR・内山氏
景気低迷により多くの企業でIT投資が削減される中、情報システムのクラウド化やアウトソーシングが注目を集めている。これによりIT部門が不要になることは決してなく、むしろコアスキルを持ったIT人材の育成が不可欠になるという。 - 「IT部門のリーダーこそ現場に飛び出せ」――ITR・内山代表
低迷からの脱却が求められる2010年。企業のリーダーこそが真っ先に現場に出るべきだとITRの内山代表は語る。 - 次代の経営を担うIT部門リーダーを育てる私塾
人材育成は重要だ。これはどの企業も理解していることだが、即効性のなさから二の次になりがちである。しかし将来の経営を見据えた場合、若手社員の成長なくして企業の成長はない。 - 日本のIT人材不足、「量」より「質」に課題あり
企業競争力を高めるためにIT基盤の強化は不可欠だ。ところが日本企業では、昨今ITに携わる人材の不足が叫ばれており喫緊の課題となっている。企業の現状を聞いた。 - 産学官連携によるIT人材育成で国際競争に打ち勝て
人材不足に悩む日本のIT産業が危機を脱する方法は何か。「将来のITトップ候補生」を目指し、経団連を中心に産学官連携による人材育成が進められている。その成果はいかに……? - 【連載】内山悟志の「IT人材育成物語」