行き詰まり:内山悟志の「IT人材育成物語」第2幕(2/2 ページ)
川口が、秦野部長の依頼で宮下と奥山の2人を対象に細々と勉強会を始めてから1年の月日が流れた。その後、全社の精鋭を集めて始動した「改革塾」は軌道に乗っていた。「IT人材育成物語」の第2幕をお届けする。
方向転換の模索
そのころ、川口が主宰する「改革塾」は第2期を迎えていた。第2期も社内の各部門から10名の精鋭が集結していた。改革塾も、以前浅賀が参加していた勉強会と同様に、一方通行の研修ではなく、メンバーが互いにアイデアを出し合い議論する、実習形式を採っていた。
自社の課題を受講生が自ら洗い出し、その解決策を導き出していくワークショップを繰り返すことで、論理思考や問題解決力が身につくと同時に、大局的な視点や改革意識が養われていく。これが川口の狙いだった。
浅賀からIT戦略委員会の運営について相談を受けた川口は、「それでは、次回の改革塾のテーマとして、その問題を取り上げてみよう」と二つ返事で引き受けた。改革塾では、毎回のように自社の課題が討議され、業務改革や経営革新のアイデアが提起されている。もちろん、ここで創出されるアイデアには、理想を追い求めるだけで現実味のないものもあったし、現場の些細な改善にとどまるものも含まれていた。
しかし、本当の意味であかり食品の未来を切り開くかもしれないと思われるような、可能性を秘めたチャレンジも少なからずあった。そしてその中にはITの潜在力を活用した改革案も含まれていた。
川口は、今のままではこれらの改革案が、単なる勉強会の中だけのアイデアにとどまってしまうことに限界と無力感を抱いていた。IT戦略委員会に集まっている上級管理職が、こうしたアイデアを評価し、アドバイスや修正を加えて、意思決定してくれれば、これらの改革案が実現に向かって進みだすことになる。
川口にとっては、浅賀の申し出はまさに渡りに船というところだった。この時川口の頭の中は、若手中心の「改革塾」と上級管理職によるIT戦略委員会を結び付けることで、会社に大きな変革の渦を巻き起こすことができるのではないかという構想が浮かんだ。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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