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対中外交、日本ができること藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)

外交は、20世紀前半のパワーポリティックスから、21世紀は理念や論理が重要に。

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イニシアティブを取れる外交を

 それにもう1つ重要なことがある。中国にパワーで対抗しようとするのは明らかに間違いである。菅総理は自衛隊への訓示の中で、北朝鮮や中国に対する態勢を整えるようにという主旨のことを語った。しかし事は自衛隊の枠を越えている。北朝鮮は自衛のためと称して核兵器開発を進め、中国はシーレーン防衛のためとして海軍の増強を進めている。これに自衛隊で対抗するには、これまでの専守防衛というコンセプトを変えるしかない。しかしそこに国民的コンセンサスがあるとは思えないからである。

 日本にとって必要なのは、ASEAN(東南アジア諸国連合)との緊密な経済協力関係、アジア太平洋諸国との緊密な経済協力関係、そしてアメリカとの同盟、インドやロシアといった国との経済関係だと思う。それぞれ中国に対する警戒感を持っている。しかし日本政府は、経済協力関係というとすぐに国内農業の保護を持ち出し、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)などでも後れを取っている。11月に横浜で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議では、TPP(環太平洋経済協力)への参加を表明する方向のようだが、与党内からも出ている反対論をどのように説得し、そして国内農業をどのように守っていくのかが焦点になる。

 こういう場面でどれほどイニシアティブを取れるかが、日本外交の課題だと思う。そのために必要なことは、少なくとも21世紀を見据えた日本という国家に関する理念であり、それを基盤にした各国へのコミットメントだ。それがあってこそ、ASEAN諸国が中国の覇権主義に懸念を表明したときに、日本もそれを共有できる。それが中国に対抗するパワーにもなるのである。

 もちろんこうしたパワーは経済だけでなく文化でも発揮できる。日本のものを輸出するだけでなく、相手国の文化を受け入れること、さらには留学生を増やすことなど、やれることはいっぱいあるだろう。軍事力だけに目を奪われる限り、中国に対抗する力はないが、すべてのパワーを動員すれば、日本がアジアで指導力を発揮することもできるはずだと思う。もっともそれだけの構想力が菅内閣にあれば、ずるずると支持率が下がることもないだろうが。

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著者プロフィール

藤田正美(ふじた まさよし)

『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。



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