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政治リスクで日本が沈む藤田正美の「まるごとオブザーバー」

借金に次ぐ借金。経済の停滞。持続可能な経済に戻るのはいつなのか。

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 来年度予算の骨格が固まった。子供手当も一部とは言え何とか上積みし、法人税の引き下げも実現し、基礎年金の国庫負担も何とか維持した。その財源探しに四苦八苦したものの、何とか税外収入を確保し、ようやく国債の発行高を今年度並みに抑えた。

見通しのない財源

 しかし、である。いったい民主党は今年度予算を何のための予算と位置付けているのだろうか。「強い経済、強い財政、強い社会保障」という菅首相の言葉がまだ生きているのならば、今年度予算とその言葉の関連がどうなのかが見えない。国債を前年度並みに抑えても、それは先進国中最悪の水準にある国の借金を減らすという道が見えたわけではない。

 GDP(国内総生産)の2倍近くなるという金額だけの問題ではない。来年度予算の最大の問題は、予算の財源のほぼ半分を借金で賄うという形が持続可能ではないという認識にまったく欠けているように見えることである。

 日本の場合、国債の95%前後は日本国内で保有されているから、ギリシャやアイルランドのような債務危機にはならない、という「楽観論」には耳を貸さないほうがいい。日本の国債を買っているのは金融機関。その金融機関を支えているのはおおざっぱに言えば国民の金融資産1500兆円。しかしそれも最近の円高 や日本の低金利、株価の低迷に嫌気して外貨建て資産に流れている。この傾向が続けば、金融機関も国債を買い続けることが難しくなる。

 それでなくても金融機関とりわけ地方銀行は、融資で利ざやを稼ぐことができないから国債で運用している。しかし国債相場がもし暴落すれば巨額の損失を被 り、それこそ下手をすれば存亡の危機になってしまうため、相場の動向には神経質だ。ちょっとしたきっかけで、国債は売り浴びせられることになり、相場が大崩れかねないのである。その時には国債を発行することが難しくなり(もちろん高い金利を払えば可能だろうが)、利払いの増加と資金調達難が国の財布を直撃する。

 そのような状況であるにもかかわらず、来年度予算の編成過程では、与党民主党は、支出を増やすことと、国民の負担を増やさないことを要求した。要するに、国民にとって不人気なことをすれば来年の統一地方選挙に勝てないというのである。菅総理でさえ、リーダーシップを発揮したのは、法人税減税幅(3%か5% か)で5%にすると決めたことと、科学技術振興費を増やしたことである。そして財源問題には触れなかった。

日本はどこへ向かうのか

 これこそ現在のような経済状況で最も望ましくないことだと思う。現在の日本は、人口が減る中で、どうやって経済成長を確保するのかという深刻な問題を抱えている。この問題の答えはそう簡単に見つからない。目の前にある若年層の高失業率や所得格差の拡大といった問題には、循環的な要素だけではなく、構造的な背景がある。だからこそ政治家は、国民に痛みを分かち合うことを要求し、国を再建しなければならないのである。

 それが自分たちの議席の心配ばかりして、いたずらに目先の「利益供与」に走れば、状況をますます悪くするだけだ。恒久的な財源ではなく、埋蔵金発掘で経費を賄えば、次年度はどうするのかという問題が出てくるのに、増税論議は来年度に先送りされてしまった。相続税増税という「金持ち増税」でお茶を濁しても、それだけで済む話ではない。

 もしこのまま政治の貧困が続けば、企業はいよいよ日本から脱出せざるをえないだろう。だいたい法人税を5%引き下げたからと言って「雇用を増やすべきだ」 という議論もおかしな話だと思う。企業が海外に立地するのは、まず日本の市場が縮小しているからであり、さらに日本の自由貿易協定が韓国などと比べると出遅れているからである。法人税の引き下げはそれらいくつかある条件の一つを緩和したにすぎない(それに赤字会社が多い中小企業にとっては法人税引き下げは何も恩恵がない)。

 政府がやらなければならないことは明白である。日本の市場の縮小をどうやって阻止し、拡大するのか。日本の輸出企業をどうやって支援し、国内での雇用を確保するのか。そして国や地方自治体の借金をどうやって減らすのか。もちろん増税は必至である。どんなに有権者に不人気でも、ここで増税という議論ができないリーダーは、日本の将来を危うくするリーダー以外の何者でもない。

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著者プロフィール

藤田正美(ふじた まさよし)

『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。



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