「部下を愛した信玄、磐石な組織を築いた家康」――小日向えりさん:リーダーシップと実現力【番外編】
かつての名君、名将からリーダーシップを学ぶ経営者やビジネスマンは後を絶たない。数年前からじわじわと広がりを見せている女子歴史ブームにおいて、歴史アイドルの草分け的存在である小日向さんに、戦国武将とリーダーについて語ってもらった。
歴史の魅力や面白さを多くの人たちに広く伝えていこうと、5年ほど前からさまざまな活動を行っています。昨年は全国各地の歴史イベントに30回以上も出演させていただき、地元の歴史ファンの方々と交流する機会に恵まれました。2011年は歴史ファンだけでなく、歴史に対してあまり関心のない人たちに向けても、歴史の素晴らしさを伝えていくことで、すそ野を広げていければと考えています。
歴史ファンといえば、まだまだ男性が大多数で、「歴史は難しい」と感じている女性や子どもは少なくありません。そうした人たちに対して、女性ならではの視点で歴史上の人物やエピソードを柔らかくかみ砕いて紹介し、歴史をより身近なものに感じてもらえれば嬉しいです。
私の出身地は奈良県で、父の趣味が寺社仏閣巡りだったこともあり、小学生のころからよく一緒に法隆寺などを訪れていました。史跡などはごく身近なものでしたが、実際に幼いころからディープな歴史ファンだったわけではありません。
歴史に強い興味を持つようになったのは、大学(横浜国立大学)に入学して間もなく、「三国志」に出合ったのがきっかけです。私は以前から珍しいTシャツを収集するのが趣味なのですが、ある日、思いがけず三国志に登場する張飛が描かれたTシャツを買いました。「この武将は誰だろう?」と、いろいろと張飛の人物像やエピソードを調べていくうちに、三国志というストーリー自体に惹かれていきました。その後、吉川英治さんの小説や横山光輝さんの漫画をはじめ、手当たり次第に三国志に関する本や資料などを読み漁りました。
そうした中、三国志に詳しい友人から「日本の戦国時代も面白いよ」と、色々と教えてもらっているうちに、戦国時代にもどっぷりとはまっていきました。
人は城、人は石垣
戦国時代の武将はとても魅力的な人物が多いです。例えば、甲斐国(現在の山梨県)を治めた武田信玄は、古代中国の兵法書「孫子」から引用した「風林火山」を旗印にするなど、さまざまな戦術に精通した軍略家として知られる一方で、リーダーとしても優れた武将でした。それを象徴するのが、「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」という名言です。信玄は、とにかく人の心を第一に考え、家臣や領民を大切にしたといいます。
山梨県や長野県には「信玄の隠し湯」と呼ばれる温泉が多数ありますが、これは合戦で傷ついた家臣の治療や休養などに使われていました。このように、信玄自身が部下思いであり、一方の部下たちも、信玄を慕い、リーダーとして大変尊敬していました。
一人のリーダーに依存しない組織
リーダーシップという観点でいうと、徳川家康もその手腕は群を抜いていました。朝廷や公家に対する「禁中並公家諸法度」や、全国の武家を統制するための「武家諸法度」といった法令を定めて徳川家の周囲に目を光らせるとともに、後継者となる息子・徳川秀忠に優秀な家臣をあてがってリーダー育成に力を注ぐなど、江戸幕府という体制が崩れないように、先々まで考えて慎重に基盤を作りました。
これまでもリーダーシップを発揮する優れた戦国大名は数多くいたものの、その武将が亡くなった途端にお家が傾いてしまうことは決して珍しくありませんでした。家康が素晴らしいのは、リーダー一個人の力に依存しない体制を作り上げたことではないでしょうか。
家康は織田信長、豊臣秀吉とともに戦国時代の三英傑と称されます。天才肌で、凡人がとても持っていないような才能を発揮した信長や秀吉と異なり、家康は長年地道に努力した結果、それが成功に結び付いた人物であり、一般の人たちでも真似できる点が多くあります。ある歴史家の先生も「三英傑の中で現代人が見習うべきは家康」とおっしゃっているように、私たちが学ぶにふさわしい偉人だと思います。
勝ち負けがすべてではない
ちなみに、私が最も好きな戦国武将は真田幸村です。組織をまとめるリーダーというタイプではないかもしれませんが、自ら先頭に立って家来をぐいぐい引っ張る姿に心を打たれます。
幸村の魅力は、損得勘定をせず、義に熱い点にあります。こんなエピソードがあります。徳川方と豊臣方が戦った「大坂冬の陣」の後、幸村は家康から信濃一国を与えるので徳川方に寝返るよう説得されました。それを受け入れることで真田家は後世安泰に暮らしていけたかもしれないのに、幸村は断固拒否して豊臣家のために戦い抜きました。その筋の通った、まっすぐな生き方にとても惹かれます。
時代の流れとともに人々の考えや思想は変わります。それに伴い、世間で注目される武将も変化しています。かつては悪役のイメージが強かった石田三成が再評価されているのが良い例です。
ひと昔前は、勝ち組が支持される風潮がありましたが、最近は、エコや社会貢献などが注目を集めており、自分だけが良ければいいというのではなく、他人のために尽くすことが評価されています。歴史においても、勝ち負けではなく、たとえ敗れても実直な生き方を貫いた武将、主君のために忠義を尽くした武将などが好まれる傾向にあるようですね。(談)
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