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「クラウドのために組織体制を見直すべき」――大和総研、鈴木専務ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

大和証券グループは8年を費やしてきたシステム刷新を2010年に完了させた。そこで注目されるのが、クラウドをシステム構築に積極的に取り入れた点。そのメリットを極大化するために、同社では事務業務を抜本的に見直した。

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職人技を必要としない組織体制の重要性

 鈴木氏が大和証券グループのシステム刷新における"肝"と位置づけるのが、社内文書の徹底的なデジタル化/ペーパレス化だ。今回のプロジェクトではそのために全PCをシンクライアントに置き換え、そこからあらゆる社内文書を閲覧できる環境を整備したという。その結果、紙やサプライ用品の使用量が大幅に抑えられ、併せて大和証券の各支店に設置されていた書庫も一掃されたことで、大和証券単体で年間72億円のコスト削減につながっている。

 プロジェクトを進める過程では、事務業務も抜本的に見直した。従来、伝票の処理時間や手法は支店ごとに異なっていたが、新システムにより事務業務を一元的に行えるようにした。これにより、人材の流動性が生まれ、多忙な業務へ人材を適宜振り分けることが円滑に行えるようになったという。

「事務業務に手を加えるにあたってのポイントは、機能別の事務組織ですべての支店に横串を刺し、事務職員のいわば職人的な技に頼らなくとも業務を回せる組織を作り上げること。こうした体制を確立できなければ、たとえクラウドを導入したとしても事務業務専用のシステムが新たに必要とされ、経営視点でのガバナンスが効かなくなることは明白なのだ」(鈴木氏)

 システム刷新は社員の負担を大幅に軽減した。例えば、同社では交通費精算のため、日々、現場の社員には紙ベースの書類の作成が、また管理職にはその確認が求められていた。だが、首都圏の鉄道やバスで利用できる交通用ICカード「Suica・PASMO」を社員に利用してもらい、そこに記録されているデータを交通費清算に用いる仕組みを構築したことで、そうした業務は一掃された。しかも、データを読み取る端末はシンクライアントであり、難しい処理を行っているわけではないという。鈴木氏は「このことから伺えるのは、クラウドや仮想化技術の使い方は自ら編み出し、社内に広げることが重要だということだ。さまざまな困難は伴うものの、その実現の暁には大きなメリットを享受できるはずだ」と強調する。

クラウドに使われるのではなく使い切る

 今回のシステム刷新を振り返り、次の2点を鈴木氏は成功の理由として挙げる。

 1つ目は、基幹システムの機能分割をうまく進められたことである。基幹システムは業務の根幹を成すものだけに、すべての業務機能刷新を同時に進めた場合、効果を出すまでに相応の時間を要し、プロジェクト間の調整が難しく稼働時のリスクも高まらざるを得ない。そこで、まずは事務と帳票にまつわる部分だけに特化して作業を進め、「触らなくていいところは徹底して触らない」(鈴木氏)ことで、作業時間とリスクを最小限に抑えたのだ。

 2つ目は、ビジネスルールに着目し、それらをできる限り収集・抽出することで業務の見直しを実施したことである。これは、ユーザーから見て一貫性が保たれたビジネスプロセスを作り上げるための方策である。併せて、各部門や支店で管理されているさまざまな情報もビジネスルールを基に整理。最終的にビジネスプロセスに取り込まれない情報は不要なものと判断し、それらをすべて廃棄しシステムのスリム化につながったのである。

 一連のビジネスプロセスをこと細かく把握した結果、システムの利便性も向上させることができたという。入力ミスなどでエラーが発生した場合に、次に行うべき行動が掴めていることから、どう入力し直すかを画面に表示させることが可能になったからだ。

 こうした経験を踏まえ、「クラウドに使われるのではなく、主体的に使い切ることが重要」と鈴木氏。そのためにも、パブリッククラウドはベンダーロックインの可能性をはらんでいることに注意すべきだと警鐘を鳴らす。一方で、クラウドの利用に乗り出す前に、まず社内のITリソースを使い切る努力が必要というのが鈴木氏の考えだ。

 ともあれ、社内システムの最適化に取り組むにあたっては、「10年先の自社の姿を思い描くことが重要」(鈴木氏)となる。日本企業が果たしてクラウドを有効に活用できるのか。その取り組みはいよいよこれからが本番だ。

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