【最終回】自らの背中を見せて社員を育てろ!:人を信じても、仕事は信じるな!(2/2 ページ)
できるだけ社員を同行させたほうがいい。社長がどんな人に会い、どんな話をしているのか、どこを見て、どのような判断をしているのかが分かる。現場でしか教えられないこともあるのだ。
社員の誰よりも現場を知っている社長
社員の誰よりも現場を知っているおもしろい社長がいるので紹介しておきましょう。
茨城県大同青果株式会社の鈴木敏二郎社長です。ここは茨城県水戸市で青果の卸をやっている会社です。一般にはあまり馴染みのない世界ですが、農家などの産地から野菜や果物を仕入れて、八百屋やスーパーマーケットに売るという業態です。
賢い消費者なら「ピーマンはあのスーパーより、こっちの八百屋のほうが10円安い」とか、「トマトはこの店で大安売りをやっている」など、日々厳しい価格チェックをしているでしょう。しかし、青果の卸の現場では、さらに細かく、シビアな価格のやりとりをしています。
「わたしたちが扱う商品は、とにかく品目が多く、単価が安い。そのため1円の攻防は本当に熾烈です。100円のピーマンを1円安く売るかどうかで、会社の利益が吹っ飛ぶか、2倍になるかが決まってしまう世界です。実際には、1円以下の何十銭という単位で、緻密なやりとりをしている」
そんな状況だからこそ、鈴木社長は産地の現状を知ることに力を注いでいます。日本全国を飛び回って、社員の誰よりも産地に足を運ぶのです。農家の人たちとコミュニケーションをとり、「どこの、どんな作物がおいしいのか」「どれくらいの量を、いくらくらいで仕入れられるのか」など、入念にリサーチする。1円以下の攻防を繰り返す業界ですから、産地から得られるちょっとした情報が、会社の利益に大きく跳ね返ってきます。業界を知り尽くしているからこそ、社長自らが足繁く現場に通う。
さらに鈴木社長は「わたしが最も産地のことを知っていれば、担当社員はウソをつけないですからね」とも話します。まさに「人を信じても、仕事は信じるな!」というわけです。
現場でしか教えられないことがある
そんな鈴木社長に「これからはできるだけ社員を同行させたほうがいい」とアドバイスをしたことがあります。社長が率先して現場へ出向き、トップセールスマンとして活躍するのは当然ですが、その姿を近くで社員に見せることも大切だからです。
現場に同行すれば、社長がどんな人に会い、どんな話をしているのか、どこを見て、どのような判断をしているのかがリアルに分かります。やはり、現場でしか教えられないこともあるのです。
例えば、わたしはお歳暮をお客さまへ持っていくとき、必ず社員を同行させます。そのとき、わたしの後をふらふらついてくるような社員がいたら、「何やってるんだ。おまえが先に行って『今日は社長の小山と一緒にきました』ってあいさつしてこい!」と言います。なぜ、そうさせるかが分かるでしょうか。
いつも訪問している担当営業が先に行って「社長と一緒にきた」と言えば、先方は迎える準備をすることができます。脱いでいた上着を着るなど、身支度を整えれるわけです。ところが、もしわたしが突然行ってしまったら、こっちは上着を着ているのに、向こうは着ていないかもしれません。
結果として、相手に恥をかかせてしまう。そうならないためにも、社員に先に声をかけさせる。
こんなことは社内で何度も話すより、現場で教えるほうがはるかに効果的です。品物の「のし」の向きはどうするのか、鉢植えの花を渡すときは何を注意するのかなど、一つひとつは小さなことですが、仕事というのはそうやって現場で覚えていくものです。現場でわたしから教えられた社員は、自分に部下ができたとき、同じ場所で、同じことを教えるようになります。
社員を同行することで、社長が持っている知識、知恵、技術、経験を現場で学び、それをまた下の社員に伝えていくことができます。そうやって少しずつ会社の風土や文化ができあがっていく。「伝える」から「伝わる」に変わる。
現場は、真実を知るための情報の宝庫であり、お客さまとの信頼関係を築く場であると同時に、社員を教育する最高の場でもある。
著者プロフィール:小山 昇
株式会社武蔵野 代表取締役社長。全国の経営者でつくる「経営研究会」主催。1948年山梨県に生まれ、東京経済大学卒業後、日本サービスマーチャンダイザー(現在の株式会社武蔵野)に入社。昭和52年に株式会社ベリーを設立し社長に就任、昭和62年に現職に就任。 平成2年、株式会社ダスキンの顧問に就任。平成4年顧問を退任、現在に至る。 株式会社武蔵野は、国内企業で初となる2度の経営品質賞を受賞。(2000年、2010年)その経営ノウハウを活かし、“中小企業の経営品質”にフォーカスした講演活動や書籍出版を行っている。
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