プロダクトミックス、かつ地域の特性を強く意識した、市場を作るための商品開発に取り組むべき――Samsungのマーケティング戦略(2/2 ページ)
勝っている企業の戦略は誰でも気になるところ。世界市場というブルーオーシャンを駆け巡る韓国Samsungのマーケティング戦略に、日本企業は何を学ぶべきか。マーケティング企業が行った、そうした分析に注目が集まる。
消費者に分かりやすい強みを作り出し、訴求していく
Samsungが常に「世界トップ」にこだわっていることは、よく知られている。いくつもの商品で世界シェア1位を獲得し、それを積極的にマーケティングの材料として活用している。
「世界トップというのは非常に分かりやすい指標だ。例えば3DのテレビはSamsungが最初に商品化し、立ち上がったばかりの、まだ総販売台数も少ない段階で圧倒的なシェアを握る。これが、心理的にもシェアを獲得することに繋がった。“テレビ=Samsung”という図式を確立させたのだ」(飯塚氏)
日本のように閉じた市場とは逆に、世界市場は新興国を中心として爆発的に拡大を続けている。少なくとも当面は、常にブルーオーシャンが続いているといって差し支えない状況だ。
「閉じた市場の中では、販売台数が増加すればシェアの増加に直結する。しかし、例えばインドでは携帯電話の新規加入が5カ月で1億人、日本市場に匹敵する規模で増え続けている。その中では、前期比の台数ではなく、シェアを考えていかねばならない」(飯塚氏)というわけだ。
さらにSamsungは、商品作りの上でも「消費者に見える」ことを重視している。世界各地にデザイン拠点を設けて商品デザインを進め、数々のデザインアワードを受賞しているが、それだけではない。テクノロジーの面でも、「見える技術」に注力している。
「日本のメーカーは、ユーザーから見えない部分の技術も誠実に開発を続けてきたが、Samsungは違う。店頭で実演できる技術、数値化できる技術、さらには“世界初”のタイトルや商品デザインなど、消費者に見える部分の技術だけを抽出し、そこに絞って開発を進めている」(飯塚氏)
今後海外に打って出なければならない日本企業、グローバルマーケティングの上では責任者を明確にすべき
こうした強みを持つSamsung、しかし実際には、海外に市場を求めて出ていかなければならない事情があってのことだった。日本より人口がずっと少ない韓国では、国内市場はすぐに飽和してしまう。だが日本も、国内市場の将来を考えると、今後は多くの企業が海外に市場を求めて出ていかねばならない。
世界には急拡大を続ける新興国市場が数多く存在しているのに対し、日本では人口ピラミッドを見れば先細り傾向が一目瞭然、若年層には今までのような消費活動は期待できないのだから。
「日本メーカーは技術力が高い、そんな言い訳もあると思うが、Samsungに勝てていないのが実態。何が良くないのか。日本企業は言い訳のためのプレゼンばかり作っていたり、会議の内容は役員に不都合のないようにする、という状況。総じて意志決定が遅いし、提案は“守り”が中心、だから従業員のモチベーションも低下するし、社内では自分を守るための責任転嫁が横行する。
提案が成功したとしてもその人の収入が増えるわけではなく、逆に失敗したら出世に響くのだから。また、業者との癒着などもある。何といっても、プレゼンテーションにおいて責任者が不在ということが、大きな問題だ」と飯塚氏は指摘する。
そして、その対策として、次の4点を挙げた。
(1)各リージョンにマーケティングに明るい決定権者(責任者)組織をつくる:売りに対する責任のあるマーケティング組織の構築
(2)各リージョン・各国でプロダクトミックス戦略を明確にする:何によって市場に切り込み、次にどのような商材をローンチングするか……
(3)どの国からローンチし、どう市場を拡大させていくかのストーリーづくり:グローバルを鳥瞰的に戦略策定する
(4)マーケティングのスピードアップのためのシステムを構築する
こうした対策を実際のものにする上で、やはり重要なのは経営層の姿勢だろう。飯塚氏は、こう語っている。
「Samsungでは、オーナーは組織全体を見ている。また、我々コムセルのプレゼンには、常務以上の役員が全員出席する。常務がOKしたものを、後からひっくり返すことは容易ではないものだから、会社としての意志決定が早いということになる」(飯塚氏)
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