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乗客の動きをとらえ、地域経済を活性化した西日本鉄道ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

このたび開催された「第17回 ITmediaエグゼクティブフォーラム」の基調講演に登壇した西日本鉄道 ICカード事業部の奥村洋介課長は、同社の交通系ICカード「nimoca」を活用したさまざまな取り組みを解説した。

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50万件/1日の決済データを有効活用するために

 nimocaにおけるお金の流れを概観すると、まず、利用者が現金をチャージする。次に、各種サービスを利用したり商品を購入する際には、利用者はチャージされた電子マネーで決済する。併せて、加盟店から決済額に応じたnimocaの利用手数料が支払われる、という具合である。このことからnimocaは決済手数料を収益の柱にしており、収益を高めるためには、利用頻度を高まることが欠かせないことが理解できるだろう。

 nimocaは現在、どれほど利用されているのか。奥村氏によると決済ごとに生み出されるnimocaのデータは1日当たり実に50万件にも上るという。

「WAONやnanacoといった流通系企業が展開する電子マネーでは、基本的に買物での電子マネーの利用履歴しか把握できない。対して、当社はお買物に加え電車・バスでの利用履歴が分かる。会員の属性データも4割以上保有していることから、利用履歴と突き合わせてより深く会員の行動を分析することができる。ひいては潜在顧客を掘り起こすための精度の高い施策立案も可能になっているわけだ」(奥村氏)

 nimocaでは利用データと属性データを確認するための顧客分析システムを整備し、加盟店にも開放。同システムを利用すれば、バス停ごとにどの年代で乗り降りが多いのかも容易に把握できる。こうした仕組みを活用し、単独もしくは加盟店と共同で新たな顧客の創造と、客単価の向上という2つの観点からさまざまな側面から施策を検討するとともに、その実行のためにポイントサービスを柔軟に活用。さらに、成果をシステムで確認して次の施策につなげるというPDCAサイクルを回すことで、nimocaの活用に向けた経験とノウハウを蓄積していくことができるのである。

商業施設と交通機関の双方の顧客増加を実現

 既に成功事例も出てきている。まず挙げられるのが、ポイントを活用して商業施設への来訪者を増加させたものである。

 nimocaで特定の商業施設で買い物をした利用者に対して今年4月には通常の1.5倍、5月には10倍のポイントを付与するキャンペーンを実施。この施策は功を奏し、前年比で4月には10%、5月には約2倍も客足を伸ばすことができたという。久留米駅は商業の中心地として、駅やバスといった交通機関の利用者が福岡県内でも特に多い。だが、顧客分析システムにより消費者の行動を分析したところ、隣接する商業施設にほとんど足を運ばない乗客が予想以上に多かったという。今後は「商業施設に訪れたことのない会員をシステムで特定し、属性データを基にポイント施策など効果が最も見込めるキャンペーンをDMで告知することで初めての来店につなげていく考え」(奥村氏)だ。

 一方で、nimocaを利用することで交通網に利用者を呼び込むことにも成功している。列車やバスは休日に乗客が減少することはよく知られているが、同社は天神地区の商業施設と共同で、同地域に列車やバスで訪れた顧客に対してポイントや商品券をプレゼントするキャンペーンを今年7月に実施した。その成果は休日の乗降客数が10%増加するという形で表れている。

人の流れを読み、地域経済も活性化

 九州旅客鉄道(JR九州)は今年1月、日本最大規模の商業駅ビル「JR博多シティ」をオープン。これにより、西日本鉄道の利用者も増加したのだという。そこで西日本鉄道は各バス停の乗降数を基に人の流れを把握するプロジェクトを実施。その結果から、久留米エリアからのバス停乗降客が60%も増え、しかも久留米から博多方面に直接向かうバスは少ないことから、その多くは電車とバスの両方を使い博多に向かったであろうことも突き止めたのだという。

「切り口を変えることで、情報はさまざまなヒントを我々に与えてくれる。そこで、新たな商業施設と組んでのキャンペーンに加え、各種のサービスを付与した企画切符の実現などにも、情報を積極的に活用する計画だ」

 データ分析を通じて商業と交通の双方から顧客をいわば“送り合う”ことで、互いにメリットのある仕組みを実現に取り組む西日本鉄道。地域経済の発展において同社が果たす役割は、これからさらに大きなものとなりそうだ。

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