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信念を貫く内村航平の美しい体操小松裕の「スポーツドクター奮闘記」(2/2 ページ)

体操のルール改正によって、難易度の高い演技に挑む選手が増えています。その結果、けがのリスクも高まっています。スポーツ医学の視点から、今回の世界選手権を振り返ってみましょう。

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技の難易度とけがの関係

 決勝のような採点傾向になると、どのようなことが起こるのでしょうか。結果がすべての厳しいスポーツの世界ですから、選手たちは難しい技をたくさん取り入れて点数を稼ぐようになります。「美しくなくても点数を稼ぐことができる体操」を目指します。どんどん軽業のような体操になって美しい体操はすたれるとともに、難しい技を多く取り入れることによって、試合中や練習中のけがが増えることが予想されます。

内村航平選手(右)と
内村航平選手(右)と

 実際、最近は体操選手がけがに悩むことが多いように感じますし、今大会でも試合中のけがは少なくありませんでした。そのような状態が続くと「体操は危険な競技である」というレッテルも貼られることになりかねず、自分たちの首を絞めることにもなってしまいます。

 今回の世界選手権でも、期間中に国際体操連盟(FIG)がメディカルミーティングを開きました。選手たちのけがの調査を世界規模で行おうというのが主な内容です。現在のような採点法になったのはアテネオリンピックの後からですが、ルール改正によって選手たちのけがが本当に増えているのかどうかを調査しようというものです。その結果、やはり確実に増えているというデータになれば、次回のルール改正にも生かされるでしょう。「美しい体操を守る」、「選手たちをけがから守る」ために、正しいルール改正を期待したいです。

 そうした中、最後の演技を終えた内村選手は記者たちに「この鉄棒の銅メダルが一番うれしい」と答え、ウォームアップ会場に戻ってきて私に「これが有終の美を飾るってやつですかね」と、笑顔で言いました。

 ちょっと理不尽な採点に一言も文句を言わず、自分が求めてきた美しい体操で最後を飾ることができたことを心から嬉しいと思っているのです。常に結果が求められるスポーツの世界で、結果よりも美しい体操にこだわる。人がどう評価するかよりも自分が納得のいく演技ができたかどうかにこだわる。

 これらはなかなかできないことです。内村選手の偉大さを改めて感じたのでした。


著者プロフィール

小松裕(こまつ ゆたか)

国立スポーツ科学センター医学研究部 副主任研究員、医学博士

1961年長野県生まれ。1986年に信州大学医学部卒業後、日本赤十字社医療センター内科研修医、東京大学第二内科医員、東京大学消化器内科 文部科学教官助手などを経て、2005年から現職。専門分野はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ行政。



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