「自分のやりたい技術を使って消費者を喜ばせたいだけ。モノづくりの原点は好きであること――ボーズ日本法人 元代表取締役・J.TESORI 代表取締役の栗山氏:トークライブ“経営者の条件”(2/2 ページ)
モノ作りにおいて、顧客の声を聞いたり綿密なマーケティングを行うのは、必ずしも正しいとは限らないのではないか。むしろ一人のカリスマの感覚で作り上げた製品が大ヒットを生む場合もある。
直販スタイルの重要性と、モノ作りの意識
音質にこだわる高級オーディオ製品は、決して安い買い物ではない。それゆえ熱心なファン層を維持し、彼らのクチコミを期待する、そんなマーケティング手法が重要だ。栗山氏も、やはり安くない製品であるという点を踏まえて、ダイレクトショップの販売スタッフの教育に力を注いだ。
もちろん、それは品質に自信があってこそできることだろう。目標とする技術をモノにするため、しばしば長い年月をかけて研究開発を行う必要がある。ボーズでの一例が、2000年代になって発売したノイズキャンセリングヘッドホン。アイデアは昔からあったが、それを一般向け商品として売り出せるようになるまでには、20年以上の年月を費やしている。
上場企業であれば、これほど長期間に及ぶ研究開発投資を行う経営者は株主から厳しく追及されるに違いない。上場していないボーズでも、他の取締役からの異論はあるはずだ。創業者であり、強いカリスマ性を持つボーズ博士だからこそ、そうした反発を抑えて地道に研究を進めることができたのではないだろうか。
マーケティングは重要か、「客の声」は聞くべきか
顧客と正面から向き合う直販のスタイルは、顧客のニーズを自社で直接取り入れるのに役立つはずだ。しかし栗山氏は、あまりマーケッターのレポートや「顧客の声」に頼らない方が良いという。
「わたしはどんな音が好まれるのかという点よりも、こだわって作った音を世間の何割かは好んでくれる人がいるという点を重要視している。たくさんの現場を経験し、音楽の作り方の方向性なども見てきた音楽好きじゃないと、音響のモノ作りをしてはいけないのではないか。わたしは"Wow!"という表現を好んで使う。小さいけどびっくりする、感動するような音、わたしは、それを目指し続けている」(栗山氏)
ちなみに、栗山氏はビジネススクールが嫌いだという。「ビジネススクールは、CEOになるにはどのように利益を上げたらいいのか、そういったことばかり教えている。しかし、どうやって技術に投資するか、辛抱強く社員を育てるには、といったことは教えない」というのが、その理由だそうだ。ビジネススクールで学ぶ内容もさることながら、技術やモノ作りに対する姿勢が重要だという認識なのだろう。最も重要なのは、音楽好きの人が好きな音響の分野を突き詰めること、と言えるのではないか。好きだからこそ、心の底からこだわれる。モノ作りの原点は、そういったこだわりにあるのかもしれない。
栗山氏は現在、音響製品の企画から開発までのコンサルティングや製品開発を手掛ける会社を経営している。「自分の技術で出したいモノがある」というのが、独立した理由の一つだ。
「わたしは、自分でルールを決めたいと考えている。多くの企業では、競争ルールがあると決めつけて製品を作っているが、その決めつけによって自分で自分たちの首を絞めていないだろうか。自身のコアコンピタンスを辛抱強く育て、感動して購入してもらえるようにしていきたい。」
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