組織のライフサイクルに応じたリーダー像:ヘッドハンターから見たリアルリーダーとは? (2/2 ページ)
求められるリーダー像は、会社がどのステージにいるかによって変わってくる。「優秀」さの定義が変わるのだ。自分はどのステージで活躍できるかを考えてみてはいかがだろうか。
第4ステージ:成熟期
この第3ステージを乗り切って第4ステージの「成熟期」までたどり着ける会社はすでに大企業で、高いブランド力を持ち、市場を牽引している存在となっています。優秀な経営陣の下に、企業としては最も華やかで輝かしく勢いのある黄金期ともいえる時期です。
このステージでは新卒採用にも力を入れ、次世代のリーダー層も意識的に育成し、外部から人を採用するよりも社内で育成、抜擢をしていく傾向があります。この時期は売上げとともに利益率も高く、会社としても管理部門と営業部門のバランスが取れている時期です。
長期的視点で市場のニーズなどを読み取り、リスクをとり、創造的に物事を考えられる企業家資質を持つ人もいれば、結果重視で行動的、現実的な必殺仕事人タイプも存在します。
また、システム志向で計画的に行動し、生産性の向上やプロセスを重視するロジカルな考え方ができる管理者もいれば、人や組織に興味を持ち、いろいろなタイプの人たちで構成されるチームやプロジェクトの推進役として最適な、人と人とをつなぐといった調整力がある人材もこのステージになると必要になります。
この時期のリーダー像(この場合は経営者)は、社内外に今の会社のビジョンを語り、それに基づいた戦略を立て、戦術に落とし込み、ROI(Return On Investment:投下した資本に対し、どれだけの利益が得られたかを示す指標)を意識し、会社の価値をいかに高めていくかを総合的に考えられる人です。あるべき姿に向かって会社が突き進むことができるような先導役としての役割が大きいでしょう。
ただし、あまりに社内やステークホルダーの調整に重きを置きすぎると、かえって優柔不断になり、会社の方向性を見失ってしまうこともあります。また、徐々に管理部門の力が強くなってしまう時期でもあります。部門間の障壁が高くなり、最新の情報や悪い情報が上層部に上がってこなくならないよう、危機感を持つ必要もあります。
第5ステージ:縮小加齢期
最後の第5ステージは「収縮加齢期」と呼ばれ、いわゆる大企業病に侵された組織といえます。
組織も生き物である限り、成熟期を迎えるといずれこのステージに行き着くことになります。この時期は、組織全体が保守的でリスクを回避する傾向となり、市場に目が行かず社内政治に明け暮れ官僚的な組織になりがちです。過去の成功体験を引きずり、しがらみも多くなり抜本的な改革ができにくく、それがために新製品やサービスの開発が進まないという末期的状況に陥りがちです。
組織構造も、利益を生み出さないコストセンターの費用がかさみ、組織として身動きできない状況となってきます。しかしながら、必ず死ぬことを運命付けられている人間と違って、組織は死を迎えずに再生、再建することも可能です。この時期にどういうリーダーを抜擢するのかによって組織がそのまま衰退してしまうのか、あるいは再生できるのかの大きな分かれ目ともなります。この時期に必要とされるリーダー像は、トップダウンで物事を決め、強いリーダーシップを発揮して組織を牽引できる資質を持っていることです。
この時期はスピード感が重要で、速やかに変革を成し遂げるためには調整能力よりもドライバーとなり、周りを巻き込んでいけるエネルギッシュさと高潔な人格が必要となります。抵抗勢力は生き残りをかけて本気で抵抗してきますので、その際に足元をすくわれないような清廉潔白な人物でないと最終的に人はついてこず、改革は成し遂げられません。
また、この時期は失敗のできないステージでもあるため、ある程度の企業再生の経験値を持っている人でないと難しいかもしれません。企業再生にはリストラなど痛みの伴う場面もあり、精神的にタフで人から嫌われることも恐れずにやり抜く強さと、正義感、道徳観を併せ持った人物であることが必要です。この時期は第二創業期ともいえるステージで、その会社が生き残る必然性がある場合には、不思議なほど絶妙のタイミングで最適な人物が登場してくるように感じます。
以上が会社の5つのライフステージですが、それぞれにリーダー層の資質が違います。どんなに器用な人でも全てのステージに対応できる人はいませんし、各ステージで「優秀さ」の定義も変わってきます。第1ステージで求められる優秀さと第3、第4ステージで求められる優秀さはかなり異なりますので、リーダーを抜擢する際に、そのステージのリーダーとして適正か? ということも十分考慮する必要があります。
また、冒頭で述べたように会社の寿命が10年を切っている今の時代は、一つの会社で働き続けたいと願っても会社自体が消滅してしまう可能性もあります。従って、自分自身のスキルや経験とともに本来持っている資質や性格も鑑み、どのステージで最も活躍できるかを改めて考えておくことは大事です。リーダーたる実力の一つは「自分の能力を発揮できる環境を選ぶこと」なのではないでしょうか?
次回は、リーダーを外部から採用した場合に、うまくいくケースといかないケース、及び彼らが活躍できる環境づくりはどうすればよいのかに関して話します。
著者プロフィール
石元聖子
大学卒業後、専門商社7年、外資系銀行2年、中堅アパレル会社2年とそれぞれの業界で貿易事務の仕事に従事した後、「人」をキーワードとし、独自のスタイルで仕事ができないかと模索していているときにヘッドハンターという仕事があることを知り、この業界に入る。
スタントチェイス・インターナショナル(業界内でトップ10に入るグループ)東京にてエグゼクティブ・パートナー(株主でもある共同経営者)として10年間勤めた後 2005年にラストラールを創設、代表取締役社長となり現在に至る。
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