自らの「存在意義」にこだわり続ける 楽天:海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(2/2 ページ)
楽天は、2012年を「真の世界企業の幕開けの年」とし、今後海外展開を更に加速していく方針である。5月にはマレーシアに進出すると発表した。2008年に台湾に進出してからわずか4年で12カ国目の展開となる。これまでは、買収もしくは現地企業との合弁会社の設立でビジネスを展開していたが、今回は初の単独進出になる。「27カ国体制」を目標に海外進出を加速する楽天だが、今後順調に海外展開を継続できるであろうか?
成長するビジネスモデル
電子書籍が普及して書籍がネットで購入されるようになると、当然書店などの既存小売は痛手を被ることになる。そこで、コボは店で端末を購入したユーザーがその端末でコンテンツを購入すると、一定のリベートをその店に払う仕組みを構築している。電子書籍で既存プレーヤーを完全に中抜きにするのではなく、互いに協力してWIN(書店などの小売り)-WIN(消費者)-WIN(コボ)となるビジネスモデルを展開しているのである。これは、上記の楽天のビジネスモデルと共通の思想であり、楽天は自社のビジネスモデルを理解し、ビジネスを協創できるパートナーを探して海外展開を図っているのである。
これが成功すれば、パートナーを含めたWIN-WIN-WIN-WINのビジネスモデルとなる。まさに三木谷氏が追い求める理想のビジネスの在り方なのであろう。アマゾンなどと比較すると成長スピードは劣るかもしれないが、楽天は創業当時からの自社の存在意義、コンセプトに忠実に、堅実な基盤を築きながら成長できるビジネスモデルを海外展開でも追及しているのだと思われる。
しかし、このような展開は口で言うほど容易ではない。いうまでもなく、そこで働く「人」の問題になるからである。日本だけでなく海外で働く人材も、楽天の理念、文化を理解・納得して仕事に取り組まなければならない。そこで、楽天では周囲から多くの批判的な意見を受けながらも2010年に社内公用語を英語化したり、海外パートナー企業には日本語を勉強させたりしている。
更に、企業文化を根付かせるために、楽天が創業時から行っている朝礼、朝礼後の掃除、名札の着用など、共通の文化を浸透させるさまざまな工夫をしている。また、楽天としての世界共通のビジネス基盤を作るための仕組みとしては、「ヨコテン(横展開)」を行っている。いわゆる成功事例の水平展開である。
その典型例は、楽天商業圏に顧客を囲い込むための日本式の楽天スーパーポイントの徹底した導入だろう。モール内で貨幣と同等の価値を持つポイント制度になじみのない国でも、さまざまな工夫をしながら顧客に浸透させる取り組みを行っている。
一方、海外での成功事例を日本も含めた他国に展開することも行っている。例えば、フェイスブックの活用は台湾で成功した販促手法をヨコテンしている。このように、楽天では楽天主義と呼ばれる共通の文化の浸透を図りつつ、ビジネスの仕組みは海外の各拠点と協創していくことにより、全社一体となったグローバル展開を実現しようとしているのである。
楽天のこれまでの成長は、上記のような取り組みを行ってきた結果といえるが、何故これほどの短期間に徹底して実行できたのだろうか。やはり、創業者である三木谷氏の強力なリーダーシップによるところが大きいのだと思われる。前述した「成功の5つのコンセプト」の中に、「仮説→実行→検証→仕組化」、「常に改善、常に前進」、「スピード、スピード、スピード」がある。三木谷氏は、これを自ら実践して社員に見せている。
例えば、台湾に進出する際に三木谷氏は強引に日本のデザインを移植することを主張したそうだが、これは現地で受け入れられず当初ビジネスはうまく離陸しなかったそうである。そこには、三木谷氏なりの仮説があったのだと思う。しかし、これが上手くいかないとなるとすぐに方向転換し、現地の意見を取り入れたサイト構築に切り替えている。そして、その後の展開では現地パートナーの意見を取り入れながらスピーディーにビジネスを展開している。まさに、自ら唱えたコンセプトを実行して社員に示しているのである。
また、もう一つのコンセプトとして、「Professionalismの徹底」がある。三木谷氏の言うプロとは、仕事を自分事として考え、それゆえに仕事を楽しめる人のことである。三木谷氏は、楽天のビジネスを成長させ、世界に浸透させることをおそらく本当に楽しんでいるのであろう。リーダーが自らの基本としている考えを社員に直接語り、実行して見せる。しかも、そのコンセプト自体はビジネスの基本であり、ある意味「当たり前」のことである。これを徹底させることで、愚直に泥臭く前に進んでいるのが楽天の今の姿かもしれない。
アメリカの経営学者ウォーレン・ベニスは、リーダーとは「正しいことを行う」(Do the right things.)人と定義している。三木谷氏は、周囲を巻き込んで「自分が正しいと信じる」ことを実行しているように見える。グローバル展開を図ろうとする日本企業は、このようなリーダーを多く育てる、あるいは既に社内にいる人材を発掘する、そして彼らに適切な活躍の場を与える、このような取り組みがこれまで以上に必要なのかもしれない。
著者プロフィール
井上 浩二(いのうえ こうじ)
株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。
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