その急ぎは、いつまでなのか:田中淳子のあっぱれ上司!(2/3 ページ)
急ぎで依頼したはずの仕事を、部下がいつまでたってもあげてこない。部下がさぼっているのか、あなたが舐められているのか、それとも――
「私は今までメンバーにいつも“これ、急いでやってね”と言ってきたし、それでまあ通じると思っていた。“急いで”と言ったのに、結果が出てくるのが遅いこともあったら、仕事が遅いと勝手に評価していた。まさか“急いで”の解釈にここまで幅があるとは思わなかった。メンバーはメンバーなりに、いつも“急いで”いたんだろう、きっと」そう反省し、以後もっと明確に言葉で表現しようと意識するようになったと話してくれた。
言葉をあいまいにしたまま会話すると、解釈に幅が生まれ、往々にしてこういったことが起こる。なのに、うまく伝わらなかったり期待通りの結果が得られなかったりした場合、「自分の言葉があいまいだった」という事実ではなく、「私の言ったことが伝わらない」「部下には自分の想いが通じない」と、相手の理解度に原因を求めてしまうことがあるような気がする。
このリーダーの例なら、「明日の17時までに作れるかな?」とか「金曜の定時までに仕上げてもらいたいんだけど」など日時を明確にしておけば済む話だ。もちろん、上司やリーダーの責任だけではない。部下や後輩だって「急いで、とおっしゃいますと?」「急いでということは、明日の9時までに出来上がっていればいいですか?」など自分から確認することが必要である。要は、どちらかが言葉を明確にすることを意識すればよい。そうすれば、互いの考えの食い違いを最小限にとどめられる。
あいまいな想い
部下に寄せる想いを伝える際も同じことが起こる。
もう10年くらい前の話だが、部課長クラス向けの「若手育成セミナー」を担当したときのこと。参加者は全員がラインマネジャーだった。
冒頭で「皆さんは、部下に“どのような人に育ってほしい”と考えていますか? 言葉にしてみてください」と問いかけ、端から順番に自己紹介とともに、自分が考える「部下になってほしい人材像」を語っていただいた。
何番目かの方が、「部下には“プロ意識”を持ってほしいですね」とおっしゃった。
田中:“プロ意識”とは、どういうものでしょうか?
マネジャー:“プロ意識”といえば、プロとしての意識を持つことでしょう
田中:そうでしょうね。部下にどう説明しますか?
マネジャー:プロであることをいつも意識して行動しろ、ってことですよ
田中:なるほど。もし部下が“部長、具体的にはどう行動すればいいんでしょうか”と尋ねたとします。どんな風に説明しますか?
マネジャー:そりゃ、部下のレベルによって違うから、一概には言えない
田中:ふむ。では、新入社員なら、とかリーダークラスなら、と分けるといかがですか?
マネジャー:うーん。新人だったら、どんな仕事でも“給料をもらっている”意識を忘れないということかな。“リーダーだったら自分が与えられたことだけをするのではなく、どう取り組めばよりよくなるか、創意工夫を取り入れること”かな……
「望ましい部下の姿」を具体的に言葉で表現してくださいと言うと、うーんとうなる方が実は多い。言葉にできたとしても、この例のように、「プロ意識を持つ」とか「自律した社員」とか「人間力のある人」といったあいまいな言葉にどうしてもなってしまう。
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